「米エヌビディア(NVIDIA)の自動運転車の性能は米ウェイモ(Waymo)に遠く及ばないのが現状だ」。そんな筆者の指摘にエヌビディアのジェン・スン・ファン(Jen-Hsun Huang)CEO(最高経営責任者)はみるみる興奮し始め、ついには同氏のトレードマークである革ジャンを脱いだ。
2019年3月19日(米国時間)、米サンノゼで開催していた同社の年次カンファレンス「GTC(GPU Technology Conference) 2019」でのファンCEOの記者会見における1コマだ。筆者がファンCEOに自動運転車に関して質問したところ、興味深い回答を得られたので紹介しよう。
筆者がファンCEOに投げ掛けた質問は以下のようなものだ。
エヌビディアは自動車メーカーに対して、ハードウエアとソフトウエアの両方からなる自動運転プラットフォーム「NVIDIA DRIVE Platform」を提供しようとしている。しかし、米カリフォルニア州陸運当局が2019年2月に公開したリポートによれば、エヌビディアの自動運転車の性能は良くなかった。
「離脱当たり走行距離」でウェイモに大きく見劣り
自動運転車の技術水準を推し量る指標の1つに「離脱当たり走行距離(Miles per Disengagement)」がある。これを見ると、米グーグル(Google)から独立したウェイモが「1万1017.5マイル」であるのに対して、エヌビディアはわずか「20.1マイル」にすぎなかった。
自動運転車における離脱(Disengagement)とは、自動運転車の運転席にいるテストドライバーの判断で自動運転AI(人工知能)をオフにしたり、AIが判断に迷ってテストドライバーに運転を引き継いだりすることを指す。離脱が発生せずに走れる距離が長いほど自動運転AIが優秀だと見なせる。つまり、エヌビディアの自動運転車の性能は、ウェイモに遠く及ばないのが現状だ。
エヌビディアはこの状況を挽回して、自動車メーカーを満足させられる自動運転プラットフォームを提供できるのか。「レベル4(高度運転自動化)」や「レベル5(完全運転自動化)」はいつ実現できるのか。筆者はこうファンCEOに尋ねた。
常に革ジャンのファンCEOが……
エヌビディアのファンCEOといえば、公の場では常に革ジャンを着込んでいることで有名だ。そのファンCEOが革ジャンを脱いだのだから、筆者の質問にかなりヒートアップしたことが分かる。「言いたいことはそれで終わりか」。筆者が質問を終えた際、ファンCEOはファイティングポーズまで示した。
そんなファンCEOだったが、質問自体には紳士的かつ誠実に回答してくれた。
まず主張したのは、路上試験で目指す方向性がウェイモとエヌビディアで異なるということだ。ファンCEOは「ウェイモがロボットタクシーを目指しているのに対して、我々は消費者が購入できる自動運転車、人間のドライバーが運転に介在するタイプの自動運転車を目指している」と説明した。別の言い方をすれば、路上試験ではウェイモはレベル4~5の自動運転を目指していて、エヌビディアは目指していないということだ。