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 日立製作所社長や経団連会長を歴任するなど、日本経済界のリーダーだった中西宏明氏が2021年6月27日、その生涯を終えた。75歳だった。訃報に触れ、10年前のことを思い出し、こみ上げてくるものがあった。筆者は10年前の日経ビジネス記者時代、「リーダーの研究」という記事を執筆するため、中西氏(当時、日立社長)に複数回取材する機会があった。その後も、中西氏が経団連会長に就任する前の2018年2月に単独インタビューするなど、ずっと関心を持ち続けてきた。

 中西氏は、取材のたびにリーダーやビジネスパーソンが胸に刻んで行動すべきことを明快に語ってくれた。中西氏の話には学びが多く、取材後は元気になったものだった。もうその機会は2度と巡ってこない。寂しい気持ちを抱きながら、筆者が執筆に携わった過去の記事を読み返してみた。悲しいけれど、やる気が湧いてきた。

 新型コロナ危機による乱世の今こそ、中西氏という人物を少しでも知ることで、前向きな気持ちになる読者もいるのではないか──。こう思い、中西氏への感謝と哀悼の意を込めて、本記事を執筆させていただく。

偉ぶらず気さくな笑顔で周囲を明るくした中西宏明氏(写真:陶山 勉)
偉ぶらず気さくな笑顔で周囲を明るくした中西宏明氏(写真:陶山 勉)

「人間に興味があり、その面白さを分かっている」

 中西氏は2010年に日立の社長に就任して以降、「グローバル化」を基軸に、自ら立て直して黒字化させたハードディスク事業を電撃売却したり、最新テクノロジーでより良い社会づくりに貢献する「社会イノベーション事業」への転換を図ったりするなど、大胆かつ合理的なかじ取りで日立を成長軌道に乗せた。その実績や功績については、他の記事に任せるとして、そもそもどのような人物だったのか。

 それを知るためには、川村隆氏(取材当時、日立会長)による中西評が最適だろう。「中西は人間に興味があり、その面白さというものをよく分かっていて、物事を円滑に進めるスキルが高い。相手が日本人でも外国人でも、各メンバーの気質を捉え、情や知を使い分けるのも実に上手だ」。

 中西氏本人も、こう語っている。「どこに所属して働いていようとも、一番大事なことは『人間に興味を持つ』ということです。『人はこういうことをすると喜ぶんだ』といったことに敏感でないと、社会に貢献できるような新しい価値を生み出せないと思いますよ」。