さて、複数の展示があるなかで、今回の目玉を1つだけ挙げるとすれば、筆者は冒頭の共感覚体験装置「Synesthesia X1-2.44」を選ぶ。有名なゲームクリエーターであり、シナスタジアラボ(Synesthesia Lab)を主宰するEnhance(エンハンス)の水口哲也氏と、サウンドアーティストのevala氏による共作である。振動子やLEDデバイス、照明の開発では、Rhizomatiks(ライゾマティクス)などが協力している。
Synesthesia X1-2.44とはいったい何なのか。具体的にどんな体験ができるのか。まずは装置の全体像と、体験の手順を説明しておこう。
真っ暗な部屋に、青白く光る箱型の空間がある。箱は半透明のカーテンで覆われているが、外からは誰でも体験者を眺めることができる。
空間の中央には、不思議な形をした黒い椅子が1つ置かれている。体験者は靴を脱いで箱型の空間に入り、椅子に横になるように座って、数分間の音と振動と光の「旅」に出る。
2.44は、2台のスピーカーと44個の振動子を意味する
装置はマッサージチェアか、それこそ歯医者にあるような長椅子のような外観をしている。だがこの椅子は、丸型の振動子を44個もつなぎ合わせて作られている。そこに横たわると、全身に音の振動が伝わってくる仕組みになっている。現在のところ、世界に1台しかない。
椅子の両脇、ちょうど体験者の耳に近い位置に1台ずつ、合計2つの丸く白いスピーカーも置かれている。ここから音が聴こえてくる。
作品名の最後に付いている「2.44」とは、実は2台のスピーカーと44個の振動子チャンネルを意味している。オーディオ機器に詳しくない人は何のことか、さっぱり分からないかもしれない。要はホームシアターでよく聞く「5.1チャンネル」や「7.1チャンネル」と同じ表記だ。5.1とは自宅に5台のスピーカーと1台のウーハーを設置して、映画館のような音響効果を再現することを意味している。