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 今回の肝は何と言っても、44個の振動子による音がサウンドアーティストによって綿密に設計されていることだ。音は聴覚(耳)を刺激するだけでなく、波動で体を揺らす触覚体験ももたらす。振動子が震えれば、揺れや何かに触られているような感覚が体に広がる。だからといって、ウーハー特有のお腹に響くような重低音の圧迫感は一切ない。

 体験者はただ、この椅子に座るだけ。案内係が箱の空間を出ると、自分独りになる。これから何が始まるのか全く分からず、ちょっと不安な気持ちになる。怖くなる人もいるだろう。でも同時にワクワクする。

 通常の照明が青白く変わって、体験がスタート。椅子に座っている間は、目をつぶっていたほうがいいと言われる。天井にあるLED照明装置が目に入ると、途端に現実に戻ってしまう恐れがあるからだ。目をつぶってもまぶたの裏で、うっすらと光の色の変化は感じ取れる。

音と振動を体のどこで感じていたのか?

 体験が始まると、個々の振動子がまるで生き物のように個別に動き始める。筆者の背中や腕、足で、何かがはうように移動している感じがする。

 そうした振動が、聴こえてくる音と共にさまざまに変化していく。椅子全体が揺れているように思えるときもあれば、特定の場所が強く振動しているように感じるときもある。

 筆者の場合、一番振動を感じたのは足の裏。実はこの椅子は、両足の裏が振動子に触れるように作られている。足の裏は感覚が敏感なのは、筆者も過去の経験上知っている。ここでは足の裏の感覚が、特に大きな役目を果たしているように思えた。体験後に聞いた話だが、こうした装置では「足裏の振動子は必須」だそうで、クリエーターのこだわりでもあるという。

 体験中、空間の照明の色は明るくなったり暗くなったりと変化していく。同時に椅子の振動子もさまざまな色の光を放つ。ただし、体験中は振動子の色がどう変わっているのか、本人の位置からは見えないので分からない。あくまでも外から見ている人向けの演出効果と言えそうだ。筆者も見学しているときは、椅子そのものの色の変化に未来感を覚えた。

振動子も光るが、その様子は体験者からは見えない
振動子も光るが、その様子は体験者からは見えない
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 なお、音響を担当したevala氏によれば、メロディーを奏でるような音づくりはしていないという。体験してみて、それは分かった。