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 そして後半のクライマックスへ。振動子が大きく揺れ、音が鳴り響き、そしてパタッと全てが止まる。照明だけが白くホワイトアウトのように空間全体を包み込む。

最後のクライマックス。音と振動が止まり、空間全体が白い光に包まれる
最後のクライマックス。音と振動が止まり、空間全体が白い光に包まれる
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 冒頭で紹介した体験者の声に、生死や宇宙、神といった言葉が出てきたのは、この最後の感覚が強烈に体と頭に残るからなのだろう。

 では、筆者自身の感想はどうだったか。一言で言うと「これは自分が楽器になったということか?」というものだった。だが同時に「自分は体のどこで音を聴いていたのか?」と不思議に思えた。我ながらちょっと冷静な感想だが、仕組みを知りたがる記者の悪い癖なのか、そんな思いを強くした。

 もちろん、他の体験者が口にしているような浮遊感もあった。ただそれは筆者の場合、振動しているときではなく、音と振動が全て止まった瞬間に初めてそう感じられた。

 筆者も体験直後に、関係者から「どうでしたか?」と感想を聞かれた。その場で最初に出てきた言葉は「ノイズキャンセリング機能が付いたイヤホンを外した途端、周囲の雑音が一斉に耳に飛び込んできて、周りがこんなにうるさかったことを知るのに似て、音と振動が止まると同時に、自分が今までいかに揺れ動きながら体で音を聴いている不思議な状態に置かれていたかに気付かされた」と答えた。

 続いて頭に浮かんだのが、先ほどの「楽器」という言葉だった。自分自身が音を出す楽器の一部にでもなったかのような感じがした。しかし、その音を自分がどこで「鳴らし」、そして「聴いていた」のか、よく分からない。筆者自身は耳だけではなく、体全体で音を振動と共に聴いていたのだろうと思った。

 骨伝導のような音の伝わり方が実際にあることからも、この発想は間違ってはいないだろう。だがそれともまた違う「何か」があるように思えてならなかった。

全身に新たな知覚をかぶせた状態か

 筆者はしばらく真っ暗な部屋に残り、体験者や関係者にそれぞれ感じたことをヒアリングして回った。するとある人は「セカンドスキン」という言葉が今ひらめいたと言っていた。自分の肌の上にもう1枚、新たな知覚を持つ肌をまとって、全身で音と振動と光を感じていたという意味だろう。筆者にはこのセカンドスキンという言葉が自分の体験に近く、かなりしっくりときた。

 若干種明かしになるが、サウンドを設計したevala氏に狙ったところを聞いてみた。すると「空間自体がコンサートホール」「椅子と自分の体が楽器で、かつ演奏者も鑑賞者も自分自身」「五感の境界線をなくしたい」といったキーワードが出てきた。視覚、聴覚、触覚が混ざり合ったような状態の創出とでも言うべきなのか。

 「なるほど」と感心しつつも、それを筆者を含めた一般人が言語化するのは確かに難しいと思った。だが言葉にすることよりも、まずは体で感じてみることが大切だ。こうした未知なる体験こそ、真のイノベーションといえるのではないだろうか。