会場入りして驚いたのは、平面に近い舞台にはほとんど何もないこと。所々に奇妙な機械が置かれているだけだ。開演するとガルバン氏が1人で登場。まずその衣装が気になった。公演中に数回衣装替えがあったが、フラメンコの素人である筆者からすると、見た目からしてどこがフラメンコなのか分からない。
完全に見る者の期待を、いい意味で裏切ってくれている。フラメンコ好きな人は型破りな舞台とガルバン氏の衣装に、筆者以上に驚いたかもしれない。
風変わりな機械が並ぶ中、唯一分かりやすいのは靴型の機械。ガルバン氏の動きに呼応するように、靴自身がステップを踏む。その動きこそ、AIがガルバン氏の足のステップを教師データとして学んで実践しているものだ。
その意味ではガルバン氏はステージで、姿形は異なるが「自分自身」と競演しているともいえる。AIを組み込んだ機械たちは、ガルバン氏を映す「鏡」に例えられる。ただし、通常は鏡に映る姿は本人が動かないと動かないが、AIの機械は自ら動く。
とはいえ、機械たちがどんな動きをするのか、最初のうちは分からない。そんな中、開演してすぐに筆者にも理解できたことがある。ガルバン氏は間違いなく「天才だ」ということである。
とにかく足が動くスピードが尋常ではない。1秒間に両足で、何と13回のステップを踏んでいるという。筆者が視認できているのは、ガルバン氏の高速ステップの一部にすぎないわけだ。
足だけではない。手の動きは滑らかで、かつ速い。ひらひらと指を動かすしぐさや、指をパチパチと鳴らし続ける技を見れば、ただ者ではないことは理解できる。
姿勢がいいので体格以上に本人が大きく見えるし、ジャンプ力も強くて高く飛び上がれる。床面は色が変わる仕掛けになっているが、隣の床面に飛び移るときなどの跳躍だけ見てもすごみが伝わってくる。