AIを用いたイノベーションの新しい創出法を提示
今回の公演には最終目標があった。それはガルバン氏のステップをAIが学習した結果、ステージ上の機械だけでなく、照明や音響装置も生成モデルに応じて出力を変えてくるようにしてある。公演中もサパテアードのモデルは生成され続け、最後には「会場全体がイスラエルになる」ことを目指した。
一方、AIと競演したガルバン氏は今回の公演をどう感じたのか。ガルバン氏はこれまでも、1人で舞台に立つことが多かった。しかも競演者は人ではなく、自分で動かす椅子だったりした。それが今回はAIだったわけだが、機械たちは自ら動く。そのため「ステージに1人で立っている気がしなかった」(ガルバン氏)という。
天才とまでいわれるガルバン氏でも本番のステージという非日常空間では、気持ちがセンシティブになっているという。そのため小さな変化にも敏感になる。今回は機械と共に踊っているうちに「自分の中で新しいリアクションを感じた。何が起こるか私にも分からないということが理由の1つだと思う」(同)。しかも機械を異質なものとは感じず、親しみが生まれたそうだ。
最近は、人とAIの関係性がさまざまな視点から語られている。AIが人を駆逐するかのような過激な論調が目立つ中、今回は全く別なモデルケースになったのではないかと筆者は感じる。ある分野を極めた人の身体動作をAIが学習し、その結果に基づいて動く機械と競演することで互いが刺激を受け合い、ダンスを「進化」させる。
達人のパフォーマンスが教師データになる機械学習では、人がAIに神業を伝え、AIが徐々に反応を返せるようになって、最後には人を新境地に導く。イノベーションの創出にAIが関わるという意味で、「Israel & イスラエル」はAIの新しい在り方を提示してくれたように思えた。