H1チップの採用で遅延を軽減
最後に「遅延」について触れておこう。Bluetoothイヤホンでは音の遅延は避けられない。音楽を聴く分には全く気にならないが、動画視聴や音楽に合わせてボタンを押す「音楽ゲーム」のプレイにおいてははなはだ具合が悪い。動画で唇の動きと声がずれたり、音楽ゲームではリズムがずれてまともにプレイできなかったりする。
下の図は、Powerbeats Pro、AirPods(第1世代)、有線イヤホン「EarPods」の遅延を波形で可視化したものだ。波形編集ソフトの各トラックにイヤホンから収録した音源ファイルを配置した。筆者が開発した「Combo Organ Model V」というオルガン系の鍵盤楽器アプリをiPhone上で演奏した際に、各イヤホンから音が出てくるまでのタイムラグを示している。
左側のパルス的に切り立った波形がiPhoneの画面に表示されたオルガンアプリの鍵盤をたたいた際のノイズで、遅れて記録された継続的な波形がイヤホンによって再生された音だ。画面をたたいてから継続的な波形が立ち上がるまでの時間がイヤホンの遅延となる。
実測したところ、Powerbeats Proで約230ミリ秒、AirPods(第1世代)が280ミリ秒、有線のEarPodsは約45ミリ秒という結果だった。Powerbeats ProがAirPods(第1世代)より50ミリ秒早いのは、W1ヘッドホンチップからH1チップへの進化によるものと推測している。
ちなみに、有線イヤホンのEarPodsでも45ミリ秒の遅れがあるのは、おそらくiOSの内部処理に起因する。筆者のアプリ開発の経験則に照らすと、タッチパネル処理で約20〜25ミリ秒、デジタル-アナログ変換で約20〜25ミリ秒の遅延が発生する。
Powerbeats Proを買ってAirPodsを引退させるかどうか。冒頭の自分自身への問いかけに答えを出そう。
ブラック以外の色が発売されたらPowerbeats Proを買うつもりだ。音の味付けは筆者の好みとは異なるが、落下の心配がなくAirPodsと同等の操作性が確保されているアップルの完全ワイヤレスイヤホンというだけで、2万4800円を支払う価値はある。
ITジャーナリスト