2021年初頭から、主要なSNS(交流サイト)が一斉にこれまでとは違った方向性にかじを切り始めた。「Clubhouse(クラブハウス)」に象徴される音声機能はその1つだが、それ以上に注目すべきは「クリエーターが稼げるSNS」にする動きだ。
これまでSNSはユーザー数を増やし様々な機能を提供することで、滞在時間を延ばすことに注力してきた。広告で収入を得られるからだ。クリエーターはSNSで得たフォロワーなどの人脈を生かして他のプラットフォームでマネタイズするという流れだった。
もちろん今後もその利用法は続くだろう。一方で、各SNSはクリエーターが稼げる方法を提供し始めている。
稼げる仕組みを整えるSNS
音声チャット機能「スペース」を提供しているTwitterは、有料チケットを購入したユーザーだけが入室できる「チケット制スペース」を開始した。スペースの利用は徐々に広まっている。ミュージシャンのYOSHIKI氏が2021年7月、当時ワクチン担当相を務めていた自由民主党の河野太郎氏とワクチン接種をテーマに実施した配信は約1万6000人が視聴した。また、TOKIOの国分太一氏による2021年9月の配信は約2万人が視聴したと本人が述べている。スペースは、Twitterのアカウントがあれば誰でも視聴できること、開催中でもツイートで拡散されやすいことから、視聴者数が増加しやすい。現在、チケット制スペースは、開催リクエストを受け付けているが、まだ実際に開催された事例はないようだ。
Twitterは投げ銭機能「チップ(Tips)」も開始している。これは、応援したいアカウントに対して、現金やビットコインを送る機能だ。例えば、有益な情報を発信してくれるアカウントや、ボランティア活動をしている人を支援できる。さらに、毎月定額料金を支払うことで限定のサービスを受けられる「スーパーフォロー(Super Follows)」も一部の国で開始している。利用者はスーパーフォローに申し込むことで、限定スペースへの参加、ニュースレターの受信などによって、クリエーターが提供するコンテンツを入手できる。月額料金として2.99ドル、4.99ドル、または9.99ドルの3つを用意している。
Facebookは「スター」という投げ銭機能を用意している。スターは既に日本以外の一部の国でゲーム実況動画に活用されているのに加え、米国で先行テスト中のLive Audio Roomsにも利用されている。
Instagramは自社のEC(電子商取引)サイトに遷移する「ショップ」機能を実装し、クリエーターのアフィリエイト機能とライブ配信中の投げ銭機能「バッジ」のテストを開始している。アフィリエイト機能では、クリエーターは紹介した商品の売り上げに対してコミッションを得ることができる。
人気が急上昇中のTikTokは、限られたクリエーターだけにライブ配信機能「TikTok Live」を提供し、「TikTok LIVE Gifting」による投げ銭とチケット制「TikTok Gated LIVE」による収益機能を用意している。Clubhouseも「Payments」による送金機能を提供しており、国内でも2021年末に実装予定だ。
SNSで推しを応援する時代
個人によるデジタルプラットフォームなどを使ったコンテンツ・作品の収益化は「クリエーターエコノミー」と呼ばれる。YouTubeは以前から「Super Chat」「Super Stickers」「メンバーシップ」などの投げ銭により、クリエーターが稼げる仕組みを提供している。さらに2021年には、動画に対して投げ銭ができる「Super Thanks」もリリースした。
主要SNSがこぞってクリエーターエコノミーに乗り出した理由は、優良なコンテンツを配信するクリエーターを優遇することで手数料という収入が増えるうえに、利用者の滞在時間を延ばすことができるからだ。
誰もがフラットな立場で意見を言い合えることがSNSのメリットとされてきたが、炎上が起きるようになり、誹謗(ひぼう)中傷を避けるため投稿を減らすなど、利用者の意識が少しずつ変わってきている。今後は誰もが発信者となる時代から、クリエーター(発信者)と閲覧者という図式でSNSを楽しむ時代に移っていくかもしれない。
ITライター・スマホ安全アドバイザー
