ホーチキがSAP ERPを導入したのは2012年だ。「1000本あるアドオンのデータ量の増加や、導入時のサイジングのミス、ハードウエアの老朽化などによってテーブルの読み込みが遅くなっていた」(佐藤氏)ことがきっかけだった。
Oracle DatabaseからHANAへの移行プロジェクトは「DBの移行そのものは非常に順調に進んだ」と佐藤氏は話す。Oracle DatabaseからHANAに移行する際の書き換え作業については、「カラム型のHANAが苦手なSQLを書き直すといった作業が発生した程度だった」(ホーチキの小栁津靖隆 情報システム部 情報管理課 一係 主任)という。
ホーチキのHANA導入で、想定外だったのがサーバーの移行作業だ。3連休の間に移行を予定していたが、リハーサルで3日間で移行できないことが判明したのだ。最終的にホーチキはハードウエアの増強などによって、移行期間を短縮。想定通りに移行できた。
ホーチキは今、S/4HANAへの移行を検討中だ。佐藤氏は「HANAに移行したことが、S/4HANAへの移行の第一歩だと考えている」と話す。
疑問5 SAP ERPのアドオンはS/4HANAに移行できる?
A:そのまま移行するのであれば、ほぼ可能。HANAを使った処理の高速化など、S/4HANAの新機能を利用したい場合は作り直す必要がある。
SAP ERPの不足機能を補うのがアドオンの役割だ。2000年前後までにSAP ERPを導入した企業では、数千本のアドオンを使っている例も珍しくない。導入方法が確立していなかった、SAP ERPの機能が不足していた、などが理由だ。
こうした「過去の資産」をS/4HANAに引き継げるのか。「S/4HANAへの移行時に影響を受けるアドオンは限られている。当社が以前1600本のアドオンを移行したときには、90%は変更する必要がなかった」とアビームコンサルティングの大村氏は証言する。
一方で、SAP ERPからS/4HANAへの変更で大きな影響を受けるケースもある。その例が品目コードを参照したり、品目コードを表示したりするアドオンだ。SAP ERPでは18ケタだった品目コードが、S/4HANAでは40ケタに変わっている。これに伴い、品目コードを扱うアドオンを改修する必要が出てくる。
業務に直結したアドオンは改修も
S/4HANAと同様にHANAを使った処理の高速化を実現したい場合も、アドオンの改修が必要になる。S/4HANAは、アプリケーション側の処理の一部をHANAに移して実行する「コードプッシュダウン」という機能を利用して処理を高速化している。
「動作環境をHANAにしただけでも高速化できるが、コードプッシュダウンを利用すると、さらなる処理の高速化が期待できる」とNTTデータGSLの樋口泰紀 ソリューション統括部 チーフ・コンサルタントは話す。「業務プロセスに直結するアドオンなどは、コードプッシュダウンを利用すると効果が高い」(樋口氏)という。
技術的にはSAP ERPからS/4HANAにほぼ移行可能なアドオンだが、そのままアドオンを移行していいかどうかは別途、検討する必要がある。SAP ERPの導入時にはなかった機能をアドオンで作っている場合、S/4HANAではアドオンが不要になるケースもあるからだ。アドオンを必要としていた業務そのものがなくなっていたり変わっていたりして、アドオンが不要になっていることも少なくない。
アドオンをせずに標準機能のまま利用すれば、今後のバージョンアップが容易になり、他のサービスとも連携しやすくなり、パッケージソフトを利用する恩恵を受けやすくなる。アドオンを移行する際には技術的な観点だけでなく、継続利用の観点からも検討したい。