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機器開発を進める上で必要不可欠な熱設計。本連載では、熱設計の基礎である伝熱や熱対策、そして基本的な熱設計手法を解説する。これまで説明した熱伝導と対流、熱放射、そして今回取り上げる物質移動による熱輸送で、熱の伝わり方が出そろった。これらを組み合わせることで、あらゆる熱コンダクタンスの計算に対応できるようになる。前回はこちら

物質移動による熱輸送

 熱伝導、対流、熱放射のうち対流は単一現象ではなく、単一現象で表すと熱伝導+物質移動による熱輸送であることは既に述べた。そこで4番目の式として、物質移動による熱輸送を単独で定式化しておく(図5)。

図5 換気や水冷設計の切り札
図5 換気や水冷設計の切り札
熱伝導と対流、熱放射に加え、物質移動による熱輸送を考える。物質移動による熱輸送は、機器の換気設計や水冷に欠かせない熱移動の切り札になる。
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 物質移動による熱輸送は、人間の体で考えると分かりやすい(図6)。人間の体は、熱伝導率が0.7W/(m・K)(筋肉)ぐらいである。これはガラスと同程度であり、あまりよく熱を伝えない。しかし、温泉場などにある足湯で、足をお湯の中につけて10分ぐらいすると、体中がポカポカになる。熱伝導率0.7W/(m・K)でシミュレーションしたら、せいぜい足首かふくらはぎぐらいまでしか温まらない計算になるだろうが、実際には全身に熱が運ばれている。人間の体は液冷になっており、血液が大量に熱を運ぶからだ。血流で熱を均一化しているため、温度差も少ない。これは、熱伝導だけでは計算できない。

図6 物質の移動による熱輸送
図6 物質の移動による熱輸送
熱を持った物体が移動することによって、熱が移動する。これにより静止物体の数~数十倍の熱を運ぶ。足湯で体全体が温まったり、コピー機の紙が排熱したりするのも物質の移動による熱輸送である。
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 プリンターの例も分かりやすい。プリンターは、スタッカーから出てきた紙に、ゴムでできている定着ローラーによって熱と圧力でトナーを定着させてから排出するという仕組みである。ヒーターは数百Wであり、シミュレーションでは、中はかなり熱くなる計算となる。しかし実際には、25℃の紙が100℃になって出ていくことによって、大量に熱を外に吐き出していることになる注2)。ゴムの熱伝導率は0.2ぐらいなので、定着ローラーに100~200℃のヒーターを付けると焼けてしまう。しかし、定着ローラーは回転しているため表面温度はほとんど均一になる。これも、熱伝導では計算できない。

注2)従って、両面印刷は熱が出ていきにくい。

 これらすべての現象は、簡単な式で表現できる。

移動熱流量(W)=
  物体移動量(kg/s)×物体の比熱(J/kg・K)×
  物体の温度上昇(K) …(4)

 式(4)は、水冷などでよく使われる。水量が決まって流体の物性値が分かれば、例えば1kWを入れたら水の温度は何℃上がるかといった計算ができる。パイプの中を水が通るということは、丸棒の中を熱が伝導していくことである。つまり、水を流して冷やす状態を熱伝導に置き換えられる。実際は水が流れて熱を運んでいるのだが、固体の中を伝導で熱が伝わっていくのと熱的には等価として扱える(ただし流れの方向にしか熱は伝わらない)。

 特に、換気による放熱は式(4)を使わないと計算できない。これさえ覚えておけば、ファンの選定や通風口の設計ができる。

 具体的に説明しよう。移動熱流量は重量流量で表したが、空気の場合は風量で表すので風量×密度になる。

換気による放熱量(W)=
  空気の密度×空気の比熱×風量(m3/s)×空気の温度上昇 …(5)

 常温付近での空気の密度は約1.15kg/m3、空気の比熱は1000J/(kg・K)なので、掛け算をすると1150。これらは物性値であり、温度や圧力で変わるが、この値を固定された物性値として使用することにする。

換気による放熱量(W)=
  1150×風量(m3/s)×空気の温度上昇 …(6)

 なお、自然空冷の場合はファンが付かないため、風量=風速×通風口の面積となる。

自然換気による放熱=
  1150×通風口面積×風速×空気の温度上昇 …(7)

 風速は不明である。昔はよく、0.2m/sを使っていた。通風口から抜けていくときの風速が、それくらいだったからだ。ただし、これは比較的装置が大きい場合で、例えば外形が薄い装置では0.01m/s程度と小さいことが少なくない。