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熱対策の分類

 ここまでの考え方をまとめると、3種類の熱対策を導ける(図3)。

図3 熱対策の分類
図3 熱対策の分類
空冷機器の熱対策は、論理的には3種類しかない。数十年、新しい方式や冷却デバイスは実用化されてない。ただし、素材開発は活発である。
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 第1の熱対策は、伝熱面積を大きくすること。対流と熱放射は表面積依存である上、熱伝導でも断面積が大きいほど熱は伝わるからだ。

 熱源から遠い、温度の低い場所まで熱輸送して、できるだけ広い面を使って空気に熱を逃がすことで熱源の温度は下げられる。

 お金を掛けてもよければ、リモート・ヒート・エクスチェンジャ(RHE)という方法がある。これは、ノート・パソコンやゲーム機などに使われており、熱源から離れた所にヒートシンクを置き、そこで冷やす方法だ。一般には発熱体があったらヒートシンクを直結して冷やせばいいのだが、そばに付けられない場合や、離れた場所に空きスペースがあってそこに冷却器を設けたい場合に、例えばヒートパイプを使ってヒートシンクまで熱輸送するというものだ。ヒートパイプの中には少量の液体が入っており、空気は抜いてある。減圧されているため、熱が加わると液体はすぐに気化する注3)。気化すると、気化熱が奪われる。気体は冷たい方に移動して液体に戻り、今度は凝縮熱を発生する。この相変化というサイクルで、熱を移動させる仕組みだ。

注3) 液体には、代替フロンが多く使われている。

 水冷や液冷もRHE方式の一つである。熱源から熱を奪った液体はどこかで冷やさなくては温度がどんどん上がってしまう。ほとんどの場合、液体はラジエーターなどの空冷で熱交換を行っている。水冷や液冷にすると飛躍的に冷却能力が大きくなると誤解している人もいるようだが、液体による熱輸送抵抗が増え、効率は悪くなる。

 もちろん、水冷や液冷にするメリットもたくさんある。熱源とヒートシンクを近くに置けないとき、ヒートパイプで運べる距離は短いが、水冷であれば長さの制約は緩和される。また、ヒートパイプは硬く、配置に自由が利かないが、ホースであれば好きなように配置できる。最大のメリットは、複数の熱源を1カ所のヒートシンクで冷やせることだ。さらには、冷却器を付けにくい発熱体も冷やせる。例えばモータは、ヒートシンクを付けてもせいぜい周りにフィンを立てるぐらいでそれほど表面積を増やせないが、水冷にすると熱源と冷媒との接触面積を多く取れるのでかなり効率的に冷やせるといったメリットもある。

 第2が、熱伝達率を大きくすること。これには、熱放射による方法と対流による方法がある。熱放射では、単純に放射率を大きくするしかない。例えば、高放射塗料や、塗装を施さなくても放射率が高い高放射材料を使うなどだ。一方、対流では、風速を上げることが一番簡単である。温度境界層を薄くしたり乱流化したりすることで、熱伝達率が上がる。具体的には、扇風機を回したりダクトを絞ったりなど、様々な方法がある。

 また、熱伝達率は場所によって変わるため、熱くなりそうな部品を風上側に置くなどレイアウトの最適化で熱を逃がす方法の他、乱流化する方法もある。

 第3に、部品の周囲温度、つまり機器内部の温度を下げることである。通風口を大きくしたり、換気扇を付けたり、煙突効果を使ったりなど、様々な手段がある。ただし、換気ができない密閉機器には使えない。

 以上、三つの熱対策を挙げたが、ここには新しい放熱技術が全くないことに気付かれただろうか。例えば冷却デバイスでは、ヒートパイプやペルチェ素子などは比較的新しい技術といわれている。しかし、ヒートパイプは1963年に実用化され、特許は米国で1942年に提出されているなど、かなり古い。ペルチェ素子はもっと古く、1800年代に既に試作されている。これまでのように、今、世の中にないものが10年先に登場しているようなことはないと考えると、このあたりはあまり進化しない技術分野なのかもしれない注4)

注4) なお、放熱材料などの素材開発は活発である。これまで軟らかい材料は熱伝導率が低くて使えなかったが、最近は軟らかくて熱伝導率が高い材料が出てきている。

 さらに、ほとんどがコストとの闘いであることにも気付く。大きなグラファイト・シートを貼れれば解決するが、実際には貼れないから困っている状況が続いている。

 このような観点から、熱設計は、なるべく安くできそうな対策を製品ごとに擦り合わせて実現していくという、擦り合わせ型の最たるものといえる。ここで大事なのは、手段である。「あの人がやるとうまくいくけど、この人がやると駄目」となりがちなのは、擦り合わせ型技術だからといえよう。誰がやってもだいたい同じ方法を採れるようにすることが必要になるのだ。

 では、「伝熱面積を大きくする」「熱伝達率を大きくする」「機器内部温度を下げる」という三つの熱対策について、例を挙げて掘り下げていこう。

出典:日経エレクトロニクス2014年1月6日号、pp.74-81
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
国峰 尚樹(にみね・なおき)
1977年、早稲田大学 理工学部 機械工学科卒業。同年、沖電気工業入社。電子交換機、ミニコン、パソコン、プリンタ、FDDなどの冷却方式開発や熱設計に従事。その後、電子機器用熱解析ソフトXCOOL(後にStar-Cool)の開発、CAD/CAM/CAEおよび統合PDMの構築などを担当。2007年に同社を退職し、サーマル デザイン ラボを設立。電機メーカーを中心に、製品の熱設計やプロセス改革コンサルティング、研修などを手掛ける。(所属と肩書きは記事執筆当時のものです)