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 「ブラボー、セレンディピティ!」

 1行だけ書かれた電子メールを2021年1月23日の夜に受け取った。相手はベテランのマネジメントコンサルタントで付き合いは20年以上になる。極めて真面目な人で彼がこんなことを書いてくるとは思わなかった。

 セレンディピティ(serendipity)とは「研究活動あるいは製品やソフトウエアの開発中に思わぬ発見をしたり気づかなかった解決策を見つけたりすること」だと思っていた。しかし調べてみると「偶然の結果、良い何かに出合うこと」を意味するらしい。

 今回の「良い何か」とはギタリストKellySIMONZ(ケリーサイモン)氏によるクラシック曲の演奏なのだが、その経緯を説明しよう。

同姓の別人にメールを送る間違いをしでかす

 1月23日の朝から昼にかけて仕事上の間違いを繰り返した。仕事相手とやり取りするメールの文に誤字脱字がたびたび生じる。校正紙を確認すると、あろうことか30年近く前からお世話になっている方の名前を書き間違えていた。しかも誤記の指摘をご当人から受けるという情けない事態になった。とどめは結構クリティカルな内容を書いたメールを、送ろうとした相手と同姓の別人に送信してしまったことだ。

 「今朝からどうも頭の具合が悪いようです」と冒頭のコンサルタントにメールしたところ返信があった。「そういうときはやはり気分転換が必要ですね。谷島さんは音楽方面で色々な趣味をお持ちですからぜひ。私は最近ケリーサイモンを聴いています」

 これを読んで少し驚いた。実はケリーサイモン氏の演奏を、偶然にも2日前に初めて聴いていたからだ。だがその話はひとまず置いておいて、仕事の用事を書いて彼にメールした。そこでまたしても用語を間違えた。「またまた誤記でした……。ちょっと休んだほうがよいのかも」と追伸すると返事がすぐに来た。「やはり音楽セラピーです。ケリーサイモンのクラシック曲のプレーを改めてお薦めします」。これを読んで次のメールを送った。

 「ケリーサイモン!実はまったく存じ上げなかったのですが、1月21日に実家で老母と一緒に教育テレビを見ていたら、クラシックとヘヴィメタルというテーマの番組に彼が出演し、ギターで悲愴(ひそう)を弾いていました。実は前日20日の夜、日本武道館に行き、元3人組今2人組のライブに参加したのですが谷島の真正面でギターを弾いていた大村孝佳さんの先生はケリーサイモンさんだそうです。というわけで気分転換ができているはずなのですが……」

 これに彼が返してきたのが冒頭の「ブラボー、セレンディピティ!」という1文のメールである。

 実はもう1つの偶然もあった。さらにその数日前に奥方から「クラシックとヘヴィメタルは近い、という面白そうな番組を録画したから見ないか」と声をかけられていたのだが、これが同じ番組だったのだ。録画したのは1月15日の本放送、21日に実家で見たのは再放送だった。誘われたものの「クラシックもヘヴィメタルも苦手だから」と断ってしまった。実家で偶然テレビをつけなかったらケリーサイモン氏の演奏に接することはなかった。