「企業内の業務担当者がコンピューターを学び、情報システムを設計、プログラミングし、運用を手掛けた。業務アプリケーションはもちろん、メーカーが提供するデータベース/データ通信など基盤ソフトウエアに詳しい担当者もおりメーカーにあれこれ注文を付けて製品を改良させていた。これは1970年代から1980年代にかけての大手日本企業の姿である。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と呼ばれたころ情報システムの領域においても日本は世界で先頭を走っていた」
昨年(2021年)、日経コンピュータ誌の連載「社長の疑問に答えるIT専門家の対話術」に書いた拙文の書き出しである。自分で書いておいてこう書くのも何だが、改めて読むと本当にこんなことが過去にあったのかと不思議な気持ちになる。
関連記事: 歴史無き日本の情報システム 過去に学ばず同じ失敗が続く先頭を走っていたはずなのになぜ今日の状態になったのか。拙文でその理由として、日本の情報システム利用の歴史には残念ながら知識や経験の蓄積がほとんどなく、新たな動きがあるたびに飛びつき一からやり直すことを繰り返してきたからだ、と書いた。
山登りの競争があったとして中腹までは首位であったとしても途中から裾野まで降りてしまい、別経路から登り直す、といったことをしていたらひたすら登り続けている相手に抜かれてしまい追いつけなくなる。
拙文を読んだ先輩から日本のIT企業に向けてその話をしてもらえないかと依頼された。かつてお世話になった方だったので引き受けたものの、「日本は駄目だ」という話を繰り返すのは気が進まない。聞かされた人も困るだろう。
そこで「日本企業がITをもっとうまく使い、ビジネスで成果を出すためにIT企業としてこう支援してはどうか」という提案を述べることにした。日本企業が正しいことをする手助けができれば必ず事業として成立する。
現実の商売を知らない青年の主張のようだが、正しいかどうかにこだわらず、IT企業としてもうかればいいと割り切ってしまったら、「新たな動きがあるたびに飛びつき一からやり直す」動きに加担すれば済む。例えば「最新の開発言語やツールの研修を技術者にして送りこむから後はそちらで使ってほしい」。これでもしばらくは食える。「新たな動き」が落ち着いたら次の動きを見つけ、また同じことをすればいい。
ビジネスと情報システムを同時に育てる
正しいこととは何か。ビジネスが進む先に合わせて、ITつまり情報システムも足並みをそろえて進むことだ。ビジネスをよりよい形に変えようとしたとき、必要となる情報を提供できるようにシステムも変えていく。ビジネスは生き物であるし情報システムも生き物である。
そのためには現状のビジネスと情報システムがそれそれどうなっているか、両者がどう絡み合っているかを把握する必要がある。ビジネスか情報システムあるいは両者の関係にゆがみがあったら直さなければならない。
ここへ来てベンダーロックインという懐かしい言葉が取り沙汰されるようになった。2022年の今、何をもってベンダーロックインと呼ぶのか、という点はさておき、30年以上も前に論議されたロックインについて再考するのは過去に学ぶことであり意味がある。
ベンダーロックインを指摘した公正取引委員会の報告書を読むと、検討事項として「情報システムの疎結合化」「個々の情報システム間における円滑な連携(API連携等)」「オープンな仕様の設計や情報システムのオープンソース化」が挙げられている。何らかの組織がこれら3点に取り組むとしたら、まず自分が抱えている情報システム群がどうなっているかを把握することが第一歩になる。
そうでなければどことどこのシステムの結合を疎にできる、ここにオープンソースを使える、といった判断ができない。そして繰り返しになるが情報システムはビジネスと表裏一体だからビジネスがどうなっているかも同時に把握し直さないといけない。
以上はいわゆる企業情報システムについての記述だが、まったく新しいビジネスを始め、それを支えるシステムを用意するときでも基本は同じである。ビジネスが成長し、システムも成長できるように、両者を設計する必要がある。
理屈としてはそうなるが、既存のビジネスと情報システムを腑分けしていく取り組み、ビジネスとシステムの両方を新たに設計していく取り組み、いずれも簡単ではない。それを支援するのがプロとしてのIT企業の役割になる。