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 「プリンシプル」という言葉が気になっている。プリンシプルは原理や原則と訳される。組織活動においてプリンシプルは組織が従う基本事項を指す。Merriam-Websterのオンライン版辞書でprincipleを引いてみると”a comprehensive and fundamental law, doctrine, or assumption“または“a rule or code of conduct”と出ていた。law(法)やdoctrine(教義)やrule(規則)いう文字を眺めるとやや重苦しくなるが、何らかの活動を進めるときの前提(assumption)ということである。

 なぜプリンシプルが気になっているかというと2021年になって何人かの知り合いと個別に話をしたり、本を読んだりした際、この言葉が出てきたからだ。

 まず「PMBOKガイド第7版」である。まもなく登場するプロジェクトマネジメントの知識体系だ。第6版のプロセスベースからプリンシプルベースに記載方法が大きく変わり、12の原則が提示されている。プロジェクトを巡る環境が以前より不確実になり、何が起こるか分からないから事前に細かいことを決められなくなっていることを反映している。

 データマネジメントの取り組みでもプリンシプルを明確にしたほうがよい。『データマネジメント知識体系ガイド第二版(DAMA-DMBOK)』(日経BP)の第1章に「データマネジメントの原則」という項があり、プリンシプルに従うことで戦略的ニーズと業務上のニーズのバランスをとれる、と書かれている。

 イノベーションマネジメントシステムの国際標準「ISO56002」の根幹は冒頭に掲げられているプリンシプルである。プリンシプルは「何かしなければならないことではなく、何を大切にして行動するかを示すもので、戦略のように情勢に応じて変えるものではない」(『イノベーションマネジメント・プロフェッショナル』峯本展夫著、生産性出版)。

 プロジェクトでもデータでもイノベーションでも対象は何でもよいがマネジメントを担うプロフェッショナルにとってプリンシプルが大事である。こう書くと片仮名ばかりになり居心地が悪い。そもそも日本の組織はビジョンだのミッションだのパーパスだの、片仮名を掲げなくても動ける。

 ただし動けるからといって成功するとは限らない。信頼する知り合いや著者がそろって成功のカギはプリンシプルだと指摘しているので重要だと思えてくる。活動をする以上、成功したほうがいいに決まっている。

 プリンシプルについてあれこれ調べているうちにグローバルな標準化団体オープン・グループのエンタープライズ・アーキテクチャー(EA)作成フレームワークTOGAF(The Open Group Architecture Framework)の記載をみつけた。TOGAFにおいてもプリンシプルが重要とされ、次のように説明されている。

 「良いプリンシプルのセットは組織の信念と価値で策定され、ビジネスで通じる言語で表現されるだろう。プリンシプルは少数であり、未来志向であり、経営幹部によって承認され、擁護されるべきである。(中略)プリンシプルは本質的に行為を駆り立てるものである」

 未来に向かって組織を持続させるには信念を持って価値を生む行為に挑まなければならない。プリンシプルがあれば構成員が自らを「駆り立てる」ことができる。組織の構成員がどう行動するかを自分で考え、原理原則に合っていれば自分で判断して前に進む。細かい業務プロセスやルールに縛られるより臨機応変に動ける。

 プリンシプルすなわち原理や原則あるいは前提は組織ごとに決める。関係者が自分たちのプリンシプルを議論し、書き上げてこそ腹に落ちる。誰かに押し付けられたプリンシプルなど、すぐに忘れられるか無視されるのが落ちだ。

プリンシプルの作成方法

 果たして自分で作れるのかどうか。プリンシプルを書く練習をしてみた。

 記述にあたってはTOGAFに掲載されている推奨フォーマットを使う。プリンシプルに「名前」を付け、一言で説明する「ステートメント」を書き、プリンシプルがもたらす便益を「根拠」として述べ、プリンシプルを実行するための条件や注意事項を「インプリケーション」として記述する。

 お題としてCRM(顧客関係管理)を選んだ。2020年11月19日と11月25日、一般社団法人CRM協議会が開いた『「2020 CRMベストプラクティス賞」&「2020 CRM 新型コロナウイルス対応モデル事例」受賞事例発表会』に参加し、受賞した企業・団体15組のCRM事例を聞く機会があったからだ。

 15組の取り組みから重要と思われる点を抽出し、類似のものをまとめ、プリンシプルにしてみる。15組はCRMで成果を出しており、それぞれが持つベストプラクティスは普遍的なプリンシプルに基づいていると考えられる。