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 「教育された無能力」という言葉があると知った。「考えても仕方がないし考えなくてもよくなった」状態を指し、「訓練された無気力」とも呼ぶ。社会学や教育学、行動心理学において長年注目されてきた現象だという。

 日本の組織における情報化、システム開発と運用、IT利用、デジタル化、言い方は何でもよいが、とにかくこの領域において「教育された無能力」ないし「訓練された無気力」、つまり情報関連のことを「考えても仕方がないし考えなくてもよくなった」現象がある。

 上記はこのほど出版された『情報資源管理とシステム構築統制の探究~管理思想からの理論的検討』(中西昌武著、共立出版)における指摘である。中西氏は情報資源管理のコンサルタントを経て、名古屋経済大学に移り、経営学部の教授を2020年3月末まで務めた。もともとは人間学や教育学を学んだが、工学博士でシステム監査技術者でもある。

オープンシステムとERPがもたらした結果

 中西氏の指摘をかいつまんで紹介する。いわゆるオープンシステムと、ERPと呼ばれるブラックボックスの大規模パッケージに業務情報システムを委ねた頃から、情報に関して抜本的に企画する機会が失われた。自組織の情報資源の全貌を把握している人がいなくなり、自力で情報システムの問題解決は望めず、社外のシステムインテグレーターやコンサルティング会社に依存するようになった。

 上記の記述に情報システムのフルアウトソーシングやクラウドコンピューティングを加えてもよい。情報の活用やそのためのシステム作りを自力で仕切ることができなくなった、という指摘は日経クロステックや日経コンピュータでたびたびされてきたし、筆者も書いたことがある。

 ただ、手抜きや失敗があったというより、ERP導入やアウトソーシングへの切り替えに相応の人と時間と資金を投じ、「教育」ないし「訓練」をした結果、「無能力」ないし「無気力」に陥ったという指摘は痛烈であり、感心してはいけないが感心してしまった。

 「無能力」と「無気力」をよそに、情報に関わる新たな動きが起きては消え、また別の動きが出てくることが続いている。ビッグデータ、IoT(インターネット・オブ・シングズ)、デジタルトランスフォーメーション(DX)が言い立てられ、それらを支える手法としてアジャイル開発、DevOps、ドメイン駆動設計(DDD)、デザイン思考、ローコード開発などが取り沙汰された。

 そうした動きを中西氏は「我が国の情報システムの構築は手法とアプローチが林立する群雄割拠の世界に逆戻りしてしまった」と評する。林立した手法の中から何を選ぼうとも、自組織の情報の全貌を把握し、これから先どのような情報が必要でそれらをどう集めどう使うのか、といったそもそもについて考える能力も気力もないならシステムインテグレーターやコンサルティング会社にすがるしかなく、それでは統合されない個別システムが林立するばかりである。