「10代の3人組女性アイドルが東京ドームで開いた公演に行くために、顧客に予定を変更させた人がいる。日経 xTECHのコラムでこう紹介したところ、『スケジューリングの基礎がなっていない』などと手厳しい意見を読者から頂戴しました」
「なかなかチケットが当たらず、諦めていたら急に取れてしまい…。当たる可能性が少しでもある限り、公演日にミーティングを入れるな、ということでしょう。ただ、それには大勢が絡む複雑な事情が…。いや、弁解はいけませんね。読者の皆さんの仰る通りです」
「顧客の予定を変更させたあの人」に再会し、上記のやり取りをした。
素晴らしい演奏をするロックバンドをバックに歌い踊る10代女性3人組の東京ドーム公演に行くために、彼は顧客に頼み、打ち合わせをする日時を変更させた。
そのことを書いたところ色々な反応があったので続編を書いた。
読者の反応を読んで心配になったことがあり、続編に次のように書いた。
「顧客から信頼されており予定変更を問題無く受け入れてもらえる間柄なのか。あるいは一部の読者が懸念していたように、予定を変えてくれたものの顧客は内心呆れており50代を見限っていることはないのか。事実確認は難しい。新宿歌舞伎町にある例のバーで待機し、彼がやってくるのを待ち、聞いてみないと分からない」
「例のバー」とは女性3人組の象徴である狐様(FOXGOD)のお面が掲げられている店を指す。待機していたわけではないがコラムを書いた後、そのバーで彼に再会した。
「あのくらいの記述なら万一お客さんが読んでも分からないですよね」
「いえ、お客さんに『記事になったよ』とメールを送り、(日経)xTECH記事のリンクを伝えました」
「…。お客さんにわざわざ読んでもらったのですか。何と言っていました」
「『話が控えめ過ぎませんか。公演に行くからリスケしてくれ、と言ってきたのは東京ドームの1回だけじゃないですよね』と指摘されました。確かにそうだったと反省しました」
「顧客の予定を変更させたあの人」は「顧客の予定をたびたび変更させたあの人」だった。そのたびに「予定を変えてくれたものの顧客は内心呆れており50代を見限っていることはないのか」。取材のためにバーに行ったわけではなかったが聞いてみた。
「大丈夫ですか。契約更新の時期に切られたりしませんか」
「『ライブ最優先でOKです!』とお客さんから言われています。だからといって頻繁にリスケをしているわけではもちろんないですが」
大丈夫ではない気がする。顧客も顧客である。自社の仕事と女性3人組のライブ、どちらが最優先か明らかではないか。
とはいえ目くじら立てて追及するわけにはいかない。東京ドーム公演には筆者も行ったからである。
黙って濃いハイボールを舐めていると彼のほうから話を振ってきた。
「ところで続編の中に『仕事と人生に自分としてどう取り組むかという大テーマを書いたつもり』という一節がありました。仕事への取り組みとなると思うところがあります」
それは大事な話だ。座り直して彼の説明を待った。
「とにかく仕事をきっちりやることが大事。それさえやれば、社内だろうがお客さんだろうが、愛想を振りまく必要などない。こういう考えで長年やってきました。打ち合わせでは苦虫をかみつぶしたような顔のまま、懇親会に出ても笑顔など見せずに仕事の話ばかり、そういう人間でした」
一体何の話かと思ったが黙って聞き続けた。
「そんな私が2015年の春、あの3人組を知ってしまい、キャラクターが一変したのです。まさに豹変でした。客先で『昨日ライブに行って来たけれどすごく良かった』『この間、アメリカで3人組が超大物ミュージシャンとコラボしてさー」などと、かつての私には全くあり得ない口調で、しかも笑顔で話すようになりました」