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 「プロジェクトで先が見えないとき、若い人が潰れてしまうことがある。でも必ず春は来る。そうメンバーに教えてあげるのがプロジェクトマネジャーです」

 広島修道大学の佐藤達男経済科学部教授は2020年4月18日に開催された「Backlog World 2020 re:Union」に登壇、こう語った。

 「プロジェクトに関わるすべての方のための祭典」と副題が付けられたこのイベントは2月29日に開かれる予定だったが、新型コロナウイルスの流行により中止を余儀なくされた。主催者のJBUG(Japan Backlog User Group)は諦めず、日程を4月にずらし、オンラインイベントとして実施した。re:Unionと書かれているのはそのためだ。

 「このイベントに出ます」と佐藤氏がSNSで事前に告知し、それを読んで申し込んだ。4月18日午後2時から6時25分まで自宅のPCから参加し、すべての講演とライトニングトークを見聞きした。オンラインイベントに4時間半も参加したのは初めてだったが実に楽しく、しかも考えさせられる話ばかりで、あっという間に時が過ぎた。申込者数は約600人、公開サイトに表示されていた視聴者数は常時300人超だった。

 かねてプロジェクトマネジメントに関心があったし、佐藤氏の話を聴きたかったため参加したが、イベントのテーマが「ONE」となっていたことも大きい。筆者はONEという文字を見かけるとつい読んでしまう。

 Backlog World 2020の西馬一郎運営委員長が開会式で語ったところによると、ONEは新たな一歩、チーム一丸を意味する。様々なプロジェクトのチームに加え、イベントの参加者、登壇者、事務局、配信担当も、全員一体となった1つのチームである。要するに「1人はみんなのために、みんなは1人のために」ということだ。

 筆者の中で広島の佐藤氏とONEは一対になっており時々思い出す。佐藤氏に前回会ったのは2017年12月2日で、筆者にとり極めて重要な集まりがその日に広島市であったため、仕事や私用を調整して出向いた。その集会のテーマもONEだった。佐藤氏は参加しなかったものの、催しが終わった後、広島市内で会い、プロジェクトマネジメントについて遅くまで話をした。

相次いで名言が飛び出す

 4月18日午後2時に始まったオンラインイベントに参加して、まず感銘を受けたのは登壇者の話のうまさである。言い直したり、言いよどんだりする人はおらず、最長でも40分ほどの講演を一気に聴かせてくれる。

 主催者から感想をリアルタイムでSNSに書いてほしいと要請があったので、最初の発表者について「メガネの大串さん、話が抜群に上手」「大串さん、社長だった」、次の発表者について「大橋さんも話がうまい。ワンちゃんはほえなかった」と投稿したものの、それ以降の人たちも流ちょうなのでこの手のことを書くのは止めた。

 補足すると、自宅などに分散しているプロジェクトメンバー同士が開発を進めるやり方を話した大串肇氏は若いし現場のことに詳しく、てっきり社員だと思っていたらWebサイトの開発を手掛けるmgn(エム・ジー・エヌ)の代表取締役だった。クラウド関連の設計、開発、運用を手掛けるクラスメソッドの大橋力丈氏は「自宅から話しているので飼い犬がほえるかもしれない」と講演の最初に断っていた。

 プレゼンテーションが巧みなだけではなく内容も濃かった。半日のイベントで語られた名言をまとめたらプロジェクトマネジメントの立派なlessons learned(教訓集)ができる。

 いくつか紹介してみる。例えば大橋氏は「受注前に腹を割る」「伝えるべきは弱音ではなく本音」と述べた。発注者と受注者の間で「視座・視野・視点を合わせる」ことが重要であり、受注前に「できないと思ったことは正直に伝える」。顧客とONEになろうということだ。

 大橋氏からは「エンジニアが気持ちよく働けるように振る舞うのがプロジェクトマネジャー」という発言もあった。「相手が気持ちよく働けるように振る舞う」、これは本イベントの基調だったと思う。