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 1番難しいプロジェクトはどういうものかと時々考える。プロジェクトは期限があって、1回限りの活動だ。当事者にとって次はなく、どうにかして成功させようと知恵を絞り工夫をこらす。難しいかどうかは外野が論じることで、当事者には関係ない。

 とはいえ困難を乗り越えて価値を生んだプロジェクトには創意工夫があり、多くの人に知ってもらう意味がある。例えばプロジェクトマネジメントの推進団体PMI(プロジェクトマネジメント協会)日本支部はその年に成果を上げたプロジェクトを表彰する「PM Award」という取り組みを2021年から始めた。母体である米PMIはグローバルでProject of the Year Awardという表彰をかねて実施してきた。

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 プロジェクトと銘打ってはいないが、日経コンピュータも優れたIT利用事例を表彰する「IT Japan Award」という催しを毎年実施している。

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何かをやめるプロジェクトは難しい

 新製品や新サービスをつくり出す。事業のやり方を変える。情報システムを開発し直す。色々なプロジェクトがあるが、1番難しいのは「何かをやめるプロジェクト」ではないか。

 長年提供してきた商品の生産を打ち切る。サービスを終了する。事業から撤退する。工場を閉鎖する。会社を清算する。こうしたことに伴って長年使ってきた情報システムを廃棄する。いずれも期限がはっきりしている1回限りの活動である。価値を生むのかと問われるといささか悩ましいが、「やめる」ことに意味があると判断したのだから無価値とは言えない。

 しんがりを務めるのは難しく、「何かをやめるプロジェクト」も難しい。理由を4点挙げてみる。

 プロジェクトを担当するメンバーの士気を維持できるか。やめる何かに長年関わってきた人であればあるほどやめるにあたって複雑な心境になる。有終の美という言葉はあるものの、終わりは終わりである。新しい何かをつくり出すプロジェクトのように無我夢中にはなりにくい。

 正確に実施する。製品の打ち切りに伴い契約を解消する場合、返金が必要ならきちんとそうする。やめる以上、後がないから当然である。何かを始めるプロジェクトならば、当初に多少の失敗があってもその後の活動で補える。

 批判を受け止める。生産中止や事業撤退をすれば顧客が怒る。工場を閉鎖すると従業員も地域の人も悲しむ。「なぜだ」「やめないでほしい」といった意見が押し寄せる。声を受け止め、意見に応え、しかもやめる活動を進めないといけない。

 準備不足でもやり抜く。判断が下され、時期が決まり、やめる指示が出た時点で、念入りに準備する余裕はないことが多い。それでも例えば会社の清算が予定より大きく遅れたという話はあまり聞かない。準備ができていようがいまいが、決めた時期にやめざるを得ないからだ。言い換えるとかなり無理をしてでも強引にやめることになる。

 出版社の場合、やめるプロジェクトとして以下が考えられる。雑誌を休刊(実際には廃刊)する。新雑誌の創刊を断念する。Webサイトを閉鎖する。メールマガジンの発行を終える。毎年実施してきたセミナーをやめる。

 「考えられる」と書いたが三十数年間の出版社勤務を通じてこれらすべてを体験した。振り返ってみると、やる気がなく、おざなりにやめた、という案件は1件もない。だが、いかんせん準備も時間も足りておらず、読者や参加者から批判されても仕方がない「やめるプロジェクト」もあった。