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 10年以上前の話になるが、日経コンピュータ誌の編集長をしていたとき「ユーザーあるいはユーザー企業という表記を使うな」と編集部員に指示した。情報システムが前提にあって、それを使う人や企業がいる。そういう印象を「ユーザー」から筆者は受けていたからだ。そうではなく人や企業が主であり、何らかの改革をする際、必要があれば情報システムを使えばよい。使わなくても改革ができるなら差し支えない。

 ついでに「ベンダー」という表記もやめてくれと頼んだ。コンピューターメーカーやソフトハウスも情報システムを使って業務改革をすることがある。ユーザー企業の情報システム子会社はベンダーでもある。ユーザーとベンダーという分け方に意味はない。

 だが編集部員から反発された、というほどではなかったが不評だった。一企業の記事なら社名を直接書けばよいが、一般論として企業全体について何か書こうとするとユーザー企業としたほうが書きやすく分かりやすい。そもそも日経コンピュータなのだから、「使わなくても改革ができるならそれで差し支えない」と言い張っても情報システムを使わない話はまず登場しない。

 それから10年たって改めて考えてみた。しつこいがユーザーとベンダーはやはり時代遅れの言葉だと思う。米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)や米グーグル(Google)はどちらなのか。書籍販売や広告配信を手掛けるユーザー企業だがそう呼ぶ人はいない。自動運転やモビリティー・ナントカ・サービスを手掛け、情報システムを駆使するトヨタ自動車をユーザーともベンダーとも呼びにくい。

 それでもユーザーとベンダーを使いたくなる場面がある。情報システムを構築するプロジェクトについて何か書こうとすると、情報システムを使う企業と、構築を支援したり請け負ったりする企業とを区別しなければならず、ユーザーとベンダーが出てきてしまう。

 発注者と受注者という言葉もあるが、情報システムの発注者は発注以外に社内調整や受注者の進捗確認や受け入れテストなど、いろいろなことをしなければならない。情報システム構築に伴うもろもろの仕事をこなす企業を発注者と呼ぶのはしっくりこない。

 情報システムを構築するには企画を立て、社内の各部門と意見交換し、経営陣の承認を取り付け、構築を手伝ってくれる企業を探して契約し、システムの仕様を定め、構築を頼む企業に説明し、進み具合を定期的に確かめ、テストデータを自分で用意してテストし、検収しなければならない。この一連の仕事を当事者としてやり抜く企業をどう呼べばよいのか。オーナーとかオーナーシップという言葉があるが片仮名は避けたい。