全4816文字
PR

 自宅にいて時折お茶を飲みつつ普段着のままパソコンに向かい、米国のイベントや日本の記者会見を見聞きする。質問をしたり資料をすぐ入手したりできる。実際の会場に聴講者や記者を招けなくなりインターネットを通じて実施せざるを得なかったので感心している場合ではないが、実に便利だ。

 以上は2020年5月6~7日、米IBMと日本IBMが開いたイベントや記者会見に参加して感じたことである。IBMは「Think」と呼ぶ、顧客向けの年次イベントをオンラインで開催、117セッションを実施した。イベント名は「Think Digital」になった。4月に就任した経営トップ2人、アービンド・クリシュナ最高経営責任者(CEO)とジェームス・ホワイトハースト社長が登場し、顧客企業やパートナー企業の幹部との対話も交えつつキーノートスピーチをした。

 スピーチの様子はリアルタイムで中継された。画面上で選択すると各国の言語に同時通訳され、動画に字幕が出る。コンピューターを使った翻訳なので少々おかしいところはあったが内容は理解できた。便利である。

 クリシュナCEOとホワイトハースト社長のスピーチの骨子は以下の通りであった。

 「今の危機を乗り換えるためにも強靱(きょうじん=レジリアント)かつ俊敏(アジャイル)な組織に変わらなければならない。その取り組みがデジタルトランスフォーメーション(DX)であり、柔軟(フレキシブル)で高速のテクノロジープラットフォームが不可欠だ。プラットフォームの柱はハイブリッドクラウドと人工知能(AI)で、一貫したオープンアーキテクチャーを備えたものになる」

「ロックイン」の危険を指摘するIBMの新CEO

 片仮名が多くなったが英語のスピーチなのでやむを得ない。全体を通じてオープンとAIの2語が連呼された点が感慨深かった。

 例えば「単一のパブリッククラウドにロックインされることを避け、アプリケーションをどこで動かすかを自分で決める。それにはオープンなハイブリッドクラウドが必要」とクリシュナCEOは説明した。だが30年以上前、オープンシステムの動きが出てきた時、IBMは敵役であった。オープンの推進者たちは皆、「IBMメインフレームへのロックイン打破」をうたっていた。

 また、クリシュナCEOは「すべての企業がAIカンパニーになっていく」と述べた。様々な業務にAIが組み込まれていくからだが、数年前にIBMは「曖昧で誤解を招くからAIという言葉は不適切だ」と述べ、代案として「コグニティブコンピューティング」を提唱していた。コグニティブという言葉はIBM社内の組織名などに残っているものの、顧客向けには「AI」を使うようにしたわけだ。