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 「優先的に入ってくる情報を選ぶ、ということを少しずつ心がけています。言い換えれば、強制的に入ってくる情報を一時的にカットするというのとほとんど同じかもしれません。それは具体的にいえば、どうしてもSNSやテレビとは距離を置くことには自動的になると思います」

 音楽家の波多野裕文氏が5月27日に発信した【とぶ商店 最新情報】というニューズレターに冒頭の下りがあった。波多野氏はロックバンドPeople In The Boxのリーダーでありソロとしても活躍している。日経クロステックの対談記事に出ていただいたこともある。

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 なぜ「入って来る情報」を調節しようとしているのか。ニューズレターの中で波多野氏は次のように説明していた。

 「この頃考えているのは、ひとりひとりの人間の脳は、現代の生活環境やテクノロジーが前提としているほど高性能にできてはいないのではないかということです。(中略)この頃は入ってくる情報が多過ぎて、全てが砂のように流れていって、思考している感覚が希薄に感じられることもしばしばありました。もしくは逆に瑣末な情報に揚げ足を取られて感情を煽られるような、そんなことも増えた気がします」

 日経クロステックの対談記事でも波多野氏は人間の脳の限界について語っていた。

 「僕は人間とは1人で合理的に考えられない生き物だと思っていて。そんなに人の脳ってうまくできていないでしょう。それなのに合理的に考えたくなる。でも世界の複雑さをたった1人で把握できるわけはない」

押し寄せる情報にどう対処したらよいか

 他人の脳のことはさておき、この原稿を書いている筆者は自らの脳の限界、正確には衰えを実感している。「締め切りをなかなか守れないのは締め切り前日に書き始めるからであり原稿を書くこと自体は速い」と長年うそぶいてきたが、ここ1~2年は書くこと自体も遅くなってきた。

 老化が主な原因だと思われるが、波多野氏が指摘する「入ってくる情報」をうまく処理できないせいでもある。

 仕事がらみの連絡がビジネスチャットや電子メールでしばしば入る。いちいち見なければよいのについ開いてしまう。開かなくても情報が到着した際、PC画面の片隅に1行くらい表示されるから目に入る。返答を求められたら答えないといけない。原稿を書いている途中で別の文章を読んだり書いたりすると、執筆になかなか戻れない。戻っても思考が原稿に向かわない。