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 「引き渡し前の物件を施工者の家族が内覧する慣わしがゼネコンにあるのですね」

 30年以上も第一線で仕事をしているベテランのSE(システムズエンジニア)はちょっと羨ましそうにして話し始めた。

 知人の息子さんが大手総合建設会社、いわゆるゼネコンに勤めており、先頃一般公開されて話題になった高層商業ビルの施工に関わった。完成したビルを施主に引き渡す前、そのゼネコンは施⼯に携わった社員の家族を招き、ビルの中を見学させた。

 知人の息子さんは我が子を案内し、「父さんが作ったのはこの中にある柱だ。なかなか難しくて…」と苦労話を語った。多くの父母がまだ小さい子供達を自分が担当した場所に連れて行き、仕事について説明した。

 孫の顔が見たいために同行した知人は内覧会の様子について「施工者の皆さんが子供や両親など、自分にとって大切な人を招待し、『おかげさまでこれだけの仕事ができました』と感謝の意を伝える場に見えた」と語った。「関係者同士が互いの家族を紹介し合い、本当に良い雰囲気だった」とそのSEに告げたそうだ。

 「しかもビルには施工者達の名前を刻んだ場所があるのです」

 ベテランSEはこう続けた。やはり「羨ましい」と顔に書いてある。

 自分が担当した箇所を我が子に見せたゼネコン社員はビルの別の階に移動し、隅に引っ込んだところにある手洗いに向かう。手洗いには入らず外に出ると、手洗いの裏にあたる外壁に、建設に携わった人々の名前が刻まれたプレートが飾られている。誰でも見ることができるが一般の人はまず気付かない。

 内覧日には施工者が子供を連れて次々にネームプレートの前に立ち、自分の名前を探し、指差した。「本当だ、名前がある」と子供達は嬉しそうに応じていたという。

ゼネコンを見習うために必要な2点

 情報システムすなわちソフトウエアを作る仕事においてもゼネコンと同様のことをしよう、とそのSEが言ったわけではない。「いい話ですね」とつぶやいただけだ。確かにいい話である。

 情報システムやソフトウエアをつくる業界は「アーキテクチャ」や「プロジェクトマネジメント」「プライムコントラクタ」といった言葉を建設業界から借りている。自分の成果を子供に見せることも見習ってはどうだろうか。

 少し考えてみた結果を以下に述べる。頭の体操のつもりであり、気軽に読み流していただきたい。

 ゼネコンを見習うには次の2点を満たさなければならない。

  • 完成した情報システムないしソフトウエアを発注者に引き渡す前に、家族を呼び、見てもらう。

  • 企画、設計、開発、テストを担当したSE全員の名前を情報システムないしソフトウエアのどこかに記録し、家族が見られるようにする。

情報システムを子供にどう見せるか

 1点目は人間が入れるハードウエアと共に使われる情報システムないしソフトウエアであれば可能である。例えば工場や自動車で使われる制御システムがそうだ。

 新工場の竣工に伴い、工場内の機器をコントロールする情報システムを作ったとする。発注者が許可してくれれば子供に新工場を見学させ、「ここにある機械を動かすのは父さんが作ったソフトだ」と教える。「ソフトはどこにあるの」と聞かれたら、サーバールームに案内し、「そこに並んでいる機械の中にソフトが入っている」と説明する。

 自動車の場合、発売前の新車が納入されたショールームに行き、子供を車に乗せ、「この自動ブレーキを制御しているソフトは父さんが設計した」と教える。「ソフトはどこにあるの」と聞かれたら「小さい小さいコンピュータに入れて車の中に隠してある」と説明する。

 商業ビルの内覧会ほどは楽しくない気がしないでもないが、工場や自動車は人が入れるハードウエアがあるからまだいい。銀行の勘定系システムや小売店のPOS(販売時点情報管理)システムであったらどうしたらよいか。新店舗があればまだしも既存店で動かすとなると検収前に家族へ見せることは難しい。

 大詰めの総合テストで全国のATM(現金自動預け払い機)やPOSを一斉に動かすとき、子供を銀行や小売店の店頭に連れていってはどうか。こうしたテストは日曜や祝日に実施するから不可能ではない。とはいえ、カットオーバー当日と並んで緊張感が高まる総合テストの日に家族を現場に連れていっても、楽しんでくれないかもしれない。

 店舗が無くてもインターネットの電子商取引サイトであれば子供に見せられる。ショッピングサイトの場合、テストを兼ねて子供に操作してもらい、決済のときだけ親が代行すれば喜ぶはずだ。