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 ものづくりからことづくりへ、という指摘がある。「もの」は製品やサービスそのものを、「こと」は製品やサービスを使う顧客の体験を、それぞれ指す。

 エンジニアは自分の技術力を振るって良い「もの」をつくろうとする。それは素晴らしいがエンジニアがどれほど満足しても顧客が満足しなかったら意味がない。技術を活かし、顧客が喜ぶ「こと」をやってのける。それが大事である。

 こと、すなわち顧客の体験を充実させるには、ものそのものに加え、ものを取り巻くブランドやストーリーが重要になる。

 例えば、そのブランドが冠された製品ないしサービスに触れただけで顧客が特別な気分になる。製品やサービスが生み出されるまでのストーリーが顧客の心をとらえる、といった具合である。

 IT、エレクトロニクス、自動車、機械、建築、土木といった技術の領域においても、ことづくりやブランド、ストーリーが重要になっている。

 今回はブランドやストーリーに対する「異常なこだわり」について書く。ものの品質や出来映えにエンジニアがこだわるように、プロデューサーやマーケッターはブランドやストーリーにこだわる。

難問を考え続けたエンジニア

 7月16日、知り合いのエンジニアから連絡があった。ずっと考え続けていた難問をついに解いたという。

 「3人組をなぜ2人組にしたのか」。

 これが難問である。あるエンターテイメント会社は同社に所属する3人組を今年から事実上、2人組にして活動させている。それに対し、怒っている顧客がいるがその会社は方針を変えない。

 しかも2人組にした理由を一切説明しないため、先日の株主総会で株主から追及を受けた。

 なぜこのような事態になったのか。知り合いのエンジニアはひたすら考えていたらしい。ちなみに彼は本欄で以前紹介した、3人組の公演に行くために仕事の日程を顧客に変えさせた人である。

 3人組に出会って以降、彼は人当たりが別人のように柔らかくなり、顧客を喜ばせているそうだ。

 だが、今回の2人組事件により、かつての無愛想な人に戻ってしまったのではないか。会議室で彼が黙っていたらかなり怖い。彼の顧客が困っていないか心配になる。

 筆者自身の考えを先に書いておくと、難問を解けるのは当事者だけで外野には無理だと思う。それでも彼が解けたと言うなら話を聞かなければならない。

 以下の対話でSとあるのが「3人組の公演に行くために仕事の日程を顧客に変えさせた人」、Yが筆者である。