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 あるソフトハウスの社長が社員に向けて出した「退職勧告7項目宣言」を読む機会があった。筆者はSE(システムエンジニア)やプログラマーではないが、退職勧告を出される危険はある。今後も原稿の執筆や編集の仕事を続けられるかどうかを見極めるため、7項目について自問自答してみた。

社会的に認められない遅刻の多い方 これは大丈夫である。もっとも過去を振り返ってみると「社会的に認められない遅刻」は何回かした。一度約束の時刻に2時間ほど遅れ、しかも到着まで相手に連絡をしなかったことがある。間に合わないと思ってタクシーに乗ったのが失敗で、渋滞に巻き込まれたからだ。携帯電話など影も形もない頃の話である。

 仕事を始めて1年目か2年目のとき、大阪まで出張する予定だった。ところが別の原稿が書けず、取材時刻の10分くらい前になって相手に電話をかけて謝った。先方は了解してくれたが、立ち会うはずだった広報担当者から編集長へ苦言の電話が入り、編集長から呼びつけられ叱られた。

 さすがにこうしたひどい遅刻はその後ない。最近はインターネット経由で人に会うことが増え、移動の問題による遅刻は今後起きないのではないか。

勤務時間中に雑談、私語の多い方 大丈夫と言いたいが、在宅勤務が増えてかえって危ないかもしれない。ここでいう雑談や私語は仕事に無関係なものを指すと思う。自宅でパソコンにずっと向かっていると、送られてくるメールやチャット、SNS(交流サイト)のコメントをつい読みふけってしまう。あるいはふと思い立って仕事と無関係な何かについて検索してしまう。黙ってやっているがいずれも悪いほうの雑談と見なせる。良い雑談というものもあり「取材の前後に雑談をしてこい」と先輩から教えられた。ただしビデオ会議では要件だけを済ませがちで良い雑談もやりにくい。

業務報告をしない方 これは多少危ない。記者の普段の行動は外回りで、直行直帰をする営業担当者に近い。しかし日報などはなく、その日何をしたかを報告する習慣がない。人事評価の権限を持っている上司は編集長だが、記者は編集長に日々の業務報告はしない。編集長は記事の出来栄えで記者を評価する。乱暴に書くと日ごろ何をしていようとも面白い原稿さえ出せば許されてしまうところがあった。

 もう20年以上も前だろうか、後輩が書いた記事に苦情が入り当該原稿を査読した筆者が取材先から呼びつけられた。後輩の取材を受けて立腹した相手から「おたくの記者はこういうファクシミリで取材を申し込んできた」と紙を見せられ「見ていなかった」と答えたところ相手から「上司が部下の行動を把握していない。そんな会社組織があるか」と怒鳴られた。

ビジネス用語を使わない方 ソフトハウスの技術者であっても普通のビジネス用語で対話ができないようでは困るという指摘である。記者や編集者は多くのビジネスパーソンに読んでもらおうと仕事をしているので大丈夫と書きたいが、特定の技術分野の取材を重ねていると専門用語に慣れてくるので原稿を書く際にそのまま使ってしまいがちになる。読者が専門分野の方であれば構わないが、一般書籍で専門用語をそのまま使うと読みにくい文章になる。情報システムがらみの取材を始めてから数年後、システムの問題は利用部門やシステム部門、システム開発会社だけでは解決できない、経営者が重要だ、と考えるに至り、極力普通の言葉で原稿を書くようにしてきた。