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 気になる主張の本を読んだ。「50歳まで会社などの組織で働く前半は準備・修行期間、50歳から100歳までの後半こそが本番」というのだ。

 何の本番かというと人生の本番である。「人生全体の価値を高め、具体的に働く愉しみを見いだし、十分なキャリアと愉しみ、さらにキャッシュフローを得る」、この生活が50歳から始まる。75歳くらいまでしっかり働いて稼ぎ、しかも「愉しみ」を得る。

 「50歳とか100歳とか、そんな先のことを言われても」という読者もいれば「切実な問題だ」と思った読者もおられるだろう。本の題名は『「知的自営業」のすすめ』(出川通著、言視舎)。サブタイトルに「技術者のための独立コンサル入門講座」とあり、帯には「理系技術者に朗報!」と書かれていた。

 61歳の誕生日から2日後にこの本を読んだ。記者や編集者の仕事しかしてこなかったが、学校は理系だった。取材と執筆の対象は主にコンピューター関連である。したがって著者の出川氏が定義する技術者にかろうじて入るのではないか。同書は狭義の技術者を「研究や開発、生産技術、品質管理、評価などの業務を行っている人々」、広義を「技術的企画、技術営業、技術系の管理職」などを含む「理系のサラリーマン」としている。

知的自営業になれば生涯年収がぐっと増える

 本書の主張は単純だが強靱(きょうじん)である。題名にある「知的自営業」とは頭を使う仕事をこなし「自立・自律を基本とし、雇われないで働く」ことを指す。具体的には「顧客の持ち込む問題に対して、さまざまな視点で協議・議論し、助言を提供したり、相談に乗ることを職業とする」。カタカナで書くとコンサルタントとなる。

 50歳以降に組織を離れて知的自営業に転じることで、組織に居続けるよりもやりがいのある仕事と高い収入が得られる。そのためには組織を「助走、修業の場」と考え、50歳以降の本番に備えて自分自身に投資すべきだと説く。

 知的自営業の生涯年収が定年まで組織にとどまるよりずっと高くなる理由について1章を割き、数字付きで説明する。主張が強靱と評したゆえんである。さらに本書後半の第2部で11人の知的自営業の実例が年収の数字を付けて紹介されている。

 ちなみに11人のうち7人が70歳以上で、残りは60歳代であった。11人の事例に基づいて「地道に自分の得意分野を自己責任でやっていくと、60歳以降の人生は輝いて、収入もかなり確保でき、社会に役立っている」と著者が断言してくれるのでなんだか気持ちが良くなってくる。

 収入増だけが利点ではない。著者は「自立・自律を基本とし、雇われないで働く」最大の利点として「自由度が増す」ことを挙げる。自由度についての説明が面白い。「上を見ると天井がなくなり、ある意味では爽快です。横をみると格子やドアがなくなり出入り自由です」。不愉快な上司の顔を見なくて済むのは爽快だろう。

 面白いのは次の指摘である。「(自由度について)実は最後に最大の問題があります。それは底も抜けるのです」。組織の後ろ盾が無くなるから失敗した際に1人で立て直せず奈落に落ちる危険がある。そうならないように「助走、修業」が必要になるわけだ。