「ポータブルスキル」という言葉を少し前に知った。持ち運べるスキルという意味合いだ。スキルは人に帰属するから、何であっても持ち運べるのではないか。当初首をひねった。
だが持ち運んだ先でそのスキルが使えないと意味がない。どこに行っても、場合によっては職種が変わったとしても使えるスキルでないと「ポータブル」とは呼べない。ITの仕事をしているエンジニアが持つ設計やプログラミングのスキルは大事だが、IT以外の職種で使えるとは限らない。これはポータブルスキルとは呼びにくい。
とはいえ情報システムを設計するには利用者の話を聞いて整理し、「本当はそれが欲しかった」と言ってもらえるシステムの姿を描くスキルが必要で、それはポータブルである。
ここまで書いて20年ほど前、あるSE(システムエンジニア)との対話を思い出した。彼は失敗しないプロジェクトマネジャーとして知られていた。その彼は「プロジェクトマネジメント(PM)のスキルはどんな仕事にも使える」と主張した。つまりPMのスキルはポータブルということだ。
例えばプラント建設や家電の新製品開発といったプロジェクトをやれるかと尋ねたところ、彼は「できる。ただし、プラントや家電の専門知識を持つ人を補佐に付けてもらう必要がある」と答えた。
経歴を見ると彼はエンジニアの仕事しかしてこなかったが「社長もできるはず」と言い切った。その後プラントや家電の仕事はしなかったものの、情報システム関連企業の社長になった。ただし社長としてどうであったかまでは聞いていない。
仕事をよりうまくこなせる55のヒント
ポータブルスキルという言葉を知ったのは書籍『事業開発一気通貫 成功への3×3ステップ』(秦充洋著、日経BP)の編集を担当したからだ。著者の秦氏に「この本の売りは何か」と聞いたら、「事業開発に必要な一切合切を順序立てて説明した」「ポータブルスキルを学べる」の2点だと言われた。
巻頭で秦氏は次のように書いている。「本書で紹介するアイデア出しや顧客ターゲットの捉え方、ビジネスモデルのつくり方は(中略)事業開発だけではなく、様々な仕事のシーンで使えます。(中略)あなたの仕事をよりうまくこなせるヒントが得られます」
説明された手順通りに行動することで身に付いていくポータブルスキルが各章の最後のページに列挙されている。スキルというより仕事に取り組む姿勢や考え方と呼ぶべきものもあるが、すべて数えると55点あった。
これまで記者と編集者の仕事しかしてこなかった自分に、他の職種へ移って活躍できるポータブルスキルは果たしてあるのか。55項目を眺め、気になった項目について自問自答してみた。
「組み合わせ」はアイデア発想時に威力を発揮する
発散と収束、板書によって議論の生産性を高める
ゼロから考える必要はなく、事例や歴史に学ぶ
発想スキルはある。特集記事を書く場合、こういうことをしてきた。おおよそのテーマを決め、それに沿って取材を重ねていく。聞いてきたことを単に列挙しても面白い特集にならない。何らかの視点や問題意識を持ち、それらに沿って取材した内容を整理したり、組み合わせたりする。「切り口」と呼ばれるものだ。
デスク(記事を査読する先輩記者)と2人でホワイトボードや比較的大きな紙の前で、ああでもない、こうでもないと議論し、殴り書きをする。最新と言われる技術の動向を調べていくと過去に似た経緯をたどった技術があることに気付く。
実際、IT職種に限定した職種診断を先日受けたところ、アイデア・工夫・方法や新しいものを創り出す創造性があり、事業企画・マーケティング担当者に向くという結果が出た。
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