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 将来どのようなテクノロジーが広く使われ、世の中に影響を与えるのか。それを見通せる技術の目利きが重要と言われて久しいが、未来を予測するのは極めて難しい。

 しかも厄介なことに、自社の事業や自社が所属する産業を探索するだけでは不十分だ。他の事業や他の産業まで探索範囲を広げないといけない。他分野の技術が自分の分野に関わってくるからだ。技術者はもちろん、技術者でなくてもテクノロジーの動向を見ていく必要がある。

 研究開発部門の人は自分が研究したい技術に取り組むだけでは済まない。企業として投資ないし研究しておくべき技術を探すように命じられる。

 事業部門の人は「新たな事業のネタを探せ」と上から言われる。いざ提案すると「市場規模が分からない」などと言って投資を渋る経営者でも、新事業のアイデア募集は好きなことが多い。テクノロジーは新事業のネタになり得る。

 情報システム部門やそれを支援するIT企業の人は特に大変である。ITそれ自身が広がり続け、変わっていくからだ。勉強と調査を続けなければならない。しかも「デジタルうんぬん」という流行語によって、事業そのものをITで変えられるという期待が高まった。その結果、IT以外の技術を持つ企業や事業部門から「ITで何かできないか」と相談を持ち掛けられる。

 それに応えるには、「IT以外の技術」がどうなっていくかについても考える必要がある。詳細な情報まではいらないが、様々なテクノロジーのおおよその動向を知っておいたほうがよい。

技術の将来をどう探るか

 テクノロジーの将来を探る方法は色々ある。研究開発部門には将来の動向を調べ、研究開発の方向を定める企画担当者が置かれている。自分で調べたり、シンクタンクやリサーチ会社に依頼したりする。ビジョナリーと呼ばれる有力テクノロジー企業の経営者や技術者の発言、ブログ、ツイートを追いかける手もある。

 事業部門であれば取引先、すなわち顧客や協力会社とよく話をして、テクノロジーの将来に関わる情報を集める。情報システムの開発と運用を委託しているIT企業に「先々有望なITは何か」と質問するのも手だ。

 情報システム部門もパートナーであるIT企業に尋ねる。IT企業の顧客が集まるユーザー会に出席し、他業種の人に会い、ITやIT以外のテクノロジーの動向について意見交換する。様々な技術について、学会、コンソーシアム、勉強会、NPOがあるから顔を出してみる。ITの技術者であればオープンソースソフトウエアのコミュニティーやGithubのような協業空間に参加し、技術の動きを知り、将来どうなるかを感じとる。

年間5万人に会い、情報を集める

 テクノロジーの将来を探るために日経BPはある取り組みを2013年から続けている。エレクトロニクス・ものづくり・自動車・ロボティクス、コンピューター・ネットワーク・ソフトウエア・ニューメディア・FinTech・PC、建築・土木、医療・医薬・健康・バイオテクノロジーといった専門分野を追う記者総勢200人、専門媒体の編集長と日経BP 総合研究所のラボ所長・研究員総勢50人、といった面々に「世界を今後変えていくテクノロジーは何か」と質問し、答えてもらう。総合研究所のラボ所長や研究員の多くは過去に専門媒体の編集長や編集委員を務めていた。

 回答を集めると技術が200~300件並ぶリストができる。ここから100件に絞り、『100の技術』と冠した書籍を2016年から毎年出版してきた。2022年9月に出した『日経テクノロジー展望2023 世界を変える100の技術』が7冊目になる。

専門技術を追う記者200人で作る書籍『100の技術』シリーズ
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 この取り組みに意味はあると自負している。記者や研究員はそれぞれ、相当な数の技術者や経営者に会って話をしているから広範囲のリサーチをしたことになる。

 試算してみよう。かつて日経コンピュータの記者をしていたとき、1年間に5、6回、特集という長い記事を担当した。特集1本を書くために20~30件の取材を重ねるからざっと150人に会う。特集以外に解説や事例の記事を年間十数本書く。1本につき3~5人に会うとして50人。それ以外に記者会見やセミナーに参加する。月2~3回として50人。合計すると年間250人になり、記者200人なら年間5万人となる。

 5万人の技術者、研究者、経営者もそれぞれ色々な人に会っている。5万人に集まってくる情報が記者200人の頭の中に集約され、それらを煮詰めた結果が『100の技術』になる。