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 ひょんなことから飲料メーカーの営業担当として顧客の小売業者と納入条件の交渉をしたが、約束を守れず大きな赤字をつくってしまった。1985年に社会人になって以降、ほぼ一貫して記者ないし編集者だったから、通常のビジネスパーソンと比べると仕事でお金に触る機会が少なく金銭感覚が鈍いのかもしれない。

 新雑誌や新しいWebメディアを開発するプロジェクトでリーダーのような役割をしたことはあった。とはいえ、お金の管理をする同僚がそばにいて彼から「誌面デザイン費はこのくらい、原稿料はこのくらいがそれぞれ上限」と言い渡され、その範囲で判断していた程度なので、コスト管理をしたとは到底言えない。

 プロジェクトマネジメントが大事という記事やコラムをたくさん書いてきたが、関係者と面倒な意見調整を重ね、あれこれやり繰りしてコストを抑え、プロジェクトの最終目的を達成させるプロジェクトマネジャーの苦労をどれだけ分かっているのかと聞かれると返答に困るところがある。

CEOから立て直しを要請される

 今回仕事をした飲料メーカーの社名はザ・フレッシュ・コネクション(TFC)。本社はオランダにあり、フルーツジュースをつくって小売りチェーンに販売している。業績はいまひとつで立て直しをしてほしいとTFCのCEO(最高経営責任者)から依頼された。直接会ったわけではないが動画メッセージを通じ、「生産部門は良いがサプライチェーンマネジメント(SCM)が課題」と伝えられた。

 営業担当役員として顧客である小売りチェーン数社との交渉を担当しつつ、オペレーション(生産)担当役員、在庫を調整するSCMの担当役員、原材料の購買担当役員と議論を重ねた。この3人と相談しないと顧客との契約条件を決められない。

 実は、TFCはビジネスシミュレーションゲームの名称でもある。ゲームの参加者は4人で1チームをつくり、営業、オペレーション、SCM、購買の担当役員になり、相談しながら担当する分野の意思決定を下し、飲料メーカーTFC社のROI(投下資本利益率)を高めていく。ゲームには複数回の「ラウンド」があり、あるラウンドで4人が意思決定をすると半年後のROIが算出される。ラウンドごとに意思決定すべき打ち手が増えていき、複数回のラウンドを経て最もROIを高めたチームが勝者になる。

 ゲームの狙いはSCMの考え方と実践を学び、チームワークや合意形成を体験すること。開発元はオランダのInchainge社で世界600社以上の企業と100校以上の大学がTFCを取り入れているという。日本では日立ソリューションズ東日本が日本語化し、提供している。

 TFCに参加する機会をもらい、4ラウンドを実施してみてSCMや経営の難しさを感じとれた。シミュレーションとはいえ、自分なりに決めてその結果を見ていくと、意思決定者を取材した場合とは異なる気持ちになってくる。企業活動のゲームではあるものの、参加者の意思疎通や方針を明確にすることの重要性が分かり、プロジェクトマネジメントにも通じる示唆を得られた。