「何事においても振り返りをしないと駄目です。だからノートを作っていろいろな方に差し上げています」
ビジネスコンサルティングを手掛けるインターブリッジグループ(ibg)の好川一代表に聞いた言葉である。ibgが顧客や取引先に配っているノートはいわゆる「KPT」が書けるようになっている。
KPTは振り返りをするための考え方で何かのプロジェクトや仕事が終わったとき、「良かったので次回も続けること」(Keep)、「問題になったので次回からやめたいこと」(Problem)、「次回にやってみたいこと」(Try)を書いておくものだ。
プロジェクトマネジメントの話をしていると“Lessons Learned”という言葉がしばしば出てくる。プロジェクトが終わったとき何を学んだかを参加者が話し合って記録するものだ。
書きとめたことはいつでも見られるようにしておきたい。メモに書いただけではそのうちに忘れてしまうし、いざというときにメモを探し出せない。
自分自身を例に出すと、毎年10月に『100の技術』と呼ぶ本を出すことを6年間続けている。6冊目は『日経テクノロジー展望2022 世界を変える100の技術』という題名で先月(2021年10月)に発行した。なんとか発行できたが、そこに至る過程で「問題になったので次回からやめたいこと」に多々遭遇した。
いや、「遭遇した」と書くと不可抗力だったように読める。実際は自ら招いたことばかりであった。正確に書くと「以前から問題になっており、やめないといけないことが多々あったが、懲りずにまた問題を起こした」となる。
1年前の2020年に5冊目の本を出した直後、Lessons Learnedをメモしておいた。しかし丸1年経過すると思い出せないし、書いた紙を見つけられなかった。
KPTを書きためていく専用のノートを用意すれば、案件やプロジェクトのたびに書いていける。そのときに以前の記録を読み返すといろいろな気付きがあるはずだ。「はずだ」としか書けないのが悲しいが、実践したうえでそう言っている人はいる。
原理・原則の記述は全部で65ページ
反省の記述は個人でもできるし、プロジェクトチームでもできる。会社でもできる。さらに世界中で「良かったので次回もそうすること」と「問題になったので次回からやめたいこと」を蓄積し、万人の知恵にする取り組みもある。いわゆるBOK(Body of Knowledge=知識体系)ガイドと呼ばれる文書だ。BOKはある領域のプロフェッショナルたちが得た教訓や経験の蓄積全体を指す。BOKは巨大なので、そこに至るガイド(ないし索引)が文書として発行される。
代表例はプロジェクトマネジメントのプロフェッショナル団体、米PMI(Project Management Institute)が発行してきたPMBOKガイドである。第7版は2021年10月26日からPMI日本支部のWebサイトで先行販売されている。
日本語版の正式名称は『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOKガイド)第7版+プロジェクトマネジメント標準』となっている。名称から分かる通り2つの文書で構成されている。現物を見ると「標準」が先にあり、続いて「知識体系ガイド」が出てくる。いろいろな事情からこうなったそうだが、ここでは両方まとめてPMBOKガイドと書くことにする。
第7版は第6版と比べ分量が劇的に減った。日経クロステックの島津忠承記者は重さに注目し「2kgから800gに激減」と書いていた。第7版で注目すべきはプロジェクトマネジメントの原理・原則(Principles)を12点、巻頭の「標準」の中で提示したことだ。標準の分量は65ページである。第6版を電話帳とするなら第7版は全体としてもムック、標準だけならパンフレットくらいになった。