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 「イノベーションを起こす上での課題」の1位は「日々の業務に追われて余剰時間がない」こと。

 日本経済新聞がまとめた2022年の「スマートワーク経営調査」による結果である。上場企業と有力非上場企業の計813社が有効回答を寄せ、うち43.2%が冒頭の選択肢を選んだ(複数回答で3項目を選択)。

 2022年11月4日付の日経本紙でこの調査結果を読み、少し驚いた。目の前に仕事がたくさんあり、それをこなすことに追われていると、「新たなイノベーションを」と上から命じられてもその言葉は頭の上を通り過ぎてしまう。こういう状態なのだろう。だからといって日々の業務を減らして余剰時間をつくればイノベーションを起こせるのか。そうではないと思う。

事前調査を念入りにすれば成功するのか

 7年ほど前、同じように感じた調査結果を紹介する文を自分で書いたことを思い出した。「新事業に取り組む際の課題」を尋ねたところ、回答の1位は「適切な人材の投入」(有効回答の65.3%が選択)だった。日経BP 総合研究所が2015年に実施した『上場企業500社経営企画部門調査』の結果である(有効回答数は499社)。

 人選をしっかりやり「適切な人材の投入」ができれば新事業を生み出せるのか。これも違う気がする。例えば「DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組みたいがDX人材が足りない。育成しなければ」と考えるとDXはなかなか進まない。

 経営企画部門調査では新事業の成功要因と失敗要因も聞いた。経営企画部門が把握している「新商品・新サービス・新技術の創出」と「企業提携や買収、海外進出による事業拡大・業態変革」のうち、調査時期の直近に実施した取り組みを振り返り、成否と要因を答えてもらった。

 新事業に失敗したと答えた企業が挙げた失敗の要因を見ると、「新商品・新サービス・新技術の創出」についても「事業拡大・業態変革」についても、1位は「事前調査(リスクやコストを十分把握できなかった)」だった。

 思わぬリスクが現実のものになり、コストが大幅に超過して失敗してしまった結果なのだろう。とはいえ事前調査を念入りに実施し、新事業の開発に伴うリスクとコストを十分把握してから取り掛かれば成功できるのかというと、そうではない。

 新事業に成功したと回答した企業が挙げた成功要因を見よう。「新商品・新サービス・新技術の創出」に成功した企業が挙げた要因の1位は「構想(市場が受け入れる魅力ある案が出せた)」。「事業拡大・業態変革」を成し遂げた企業が選んだ要因の1位は「顧客と取引先(優良な顧客や協力先があった)」であった。

 当たり前の指摘かもしれないが、どちらも納得できる成功要因だと受け止めた。日経クロステック読者の皆さんはどう思われるだろうか。

恵まれたプロジェクトでも成功するとは限らない

 イノベーションを起こせるくらい、効果的な情報システムを開発するプロジェクトの成否を考えてみよう。発注者の事業担当者と受注者のSEやプログラマーのそれぞれに「適切な人材」を配置し、彼らに十分な時間を与え、プロジェクトのリスクを事前に洗い出して注意し、コストをしっかり管理する。これで開発は成功するだろうか。

 これほど恵まれた状況でプロジェクトを進められること自体まずない。成否を問うても仕方がないかもしれないが、仮にそうできたとしたら成功するだろうか。成功するとはいえないと筆者は考える。前述の「構想」や「優良な顧客や協力先」を備えているかどうかが分からないからだ。

 構想は情報システムの開発においても重要である。利用者が「受け入れる魅力ある案」に基づいていないシステムであればそもそも開発する意味がない。開発できてもさほど使ってもらえない。開発者が「ハードルは高いがやってみたい、やり遂げられれば自分も成長できる」と受け止めるプロジェクトになっていれば、難しいプロジェクトでもかえって成功の可能性は高まる。

 構想が優れていれば、プロジェクトのステークホルダー(関係者)、すなわち情報システムを使う「顧客と取引先」や情報システムの開発を担う「協力先」に、プロジェクトへしっかり関わってもらえる。「優良な顧客や協力先」という成功要因を持てることになる。