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 「『最も愛を大切に』という言葉は仕事でも役に立つことが分かりました」

 「ITの仕事に愛が関係ありますか」

 「ありました。先日ある部下と別の部下がメールで言い争いを始めたのです。どこの会社でもよくある話でしょうが」

 「たいしたことではないのに延々とメールを送り合ったとか」

 「些細なことがきっかけなのですが、大げさに言うと火花がバチバチと音を立てているような、とげとげしいメールを互いに送りつけていました」

 「上司だから写しが送られてきたわけですね」

 「自分が正しいとどちらも主張し、私に承認を暗に求めてくる文面でした。やれやれと思いました」

 「あなたが正しい、もう片方は間違っている、と言ってほしかったのですね」

 「マネジャーとして禁句でしょうが、面倒だなあ、というのが正直なところで」

 「どうでもいい、さっさと仕事をしろ、と双方にメールを送るか、呼びつけて言い渡せばよかったのでは」

 「昨今の事情をご存知と思いますが、部下への発言は注意しないと。叱り飛ばすとハラスメントだと批判されかねません」

 「じっくり話をしても無駄でしょう」

 「まともに取り合って細かな指摘をしたところで感情的になっている人には意味が無い。少々考えました。それからインターネットを検索し、ある画像を探し出し、何もコメントを付けず、『全員に返信』で送りました。途端にバンバン飛び交っていたメールがぴたっと止まりました」

 「それはすごい」

 「本当にすごかったのはその後です。メールが止まって10分くらい経ったとき、『私のメールには愛が足りませんでした。すみませんでした』というメールを片方が出しました」

 「もう片方は」

 「『いえ、私の方こそ愛が足りませんでした。ごめんなさい』と返信していました。おお、愛がすべてを解決している、とメールを見ていて少し感動しました」

 「ハートマークの画像でも送ったのですか」

 「パソコンのエラーメッセージで『メモリーが不足しています』と出るでしょう。ほぼ同じデザインで『愛が不足しています』と書いてある画像を見つけて送りました。本当は『最も愛を大切に』と色付きの大文字で書いたメールを送りたい衝動に駆られたのですが我慢しました」

「愛」とは何か

 「最も愛を大切に」はこのマネジャーが信奉している人物の言葉である。彼は座右の銘のように大事にしているのでそのままメールに書かず画像をわざわざ探して部下に送った。

 上司から来たメールに本文が一切無く「愛が不足しています」という添付画像だけがあったら、さすがにぎょっとしてあれこれ考えるに違いない。

 「最も愛を大切に」と唱える人物とその同僚を筆者も崇拝しているが、座右の銘にはしていない。そもそも仕事の文章やメールで「愛」と書いた記憶がほとんどない。

 手元にある広辞苑第三版を引くと「愛」の意味が9種類載っていた。

  • 親兄弟のいつくしみ合う心。広く人間や生物への思いやり。
  • 男女間の愛情。
  • かわいがること。めでること。大切にすること。
  • 愛敬。愛想。
  • このむこと。
  • おしむこと。
  • (仏教)愛欲。愛着。
  • (キリスト教)神が人類に幸福を与えること。
  • 愛蘭(アイルランド)の略。

 筆者は愛と聞くと2番目か8番目を思い浮かべてしまい仕事で使う気にならない。「愛が不足しています」における愛は「思いやり」「愛敬」「愛想」という意味だろうが、それならわざわざ「愛」と言わなくてもいいのではないか。

 いや、腹を立てているところに「思いやりが不足しています」と書かれた画像が上司から送られてきても「その通りだ」とは思わないだろう。やはり「愛」が必要だったのか。