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 「ハードコア」という単語を日本経済新聞の経済記事で見たのは初めてではないか。

 「ツイッターが成功するためには『極めてハードコア(強硬)であることが必要だ』と強調し、『これは長時間、猛烈に働くことを意味する』と述べた」

 米Twitter(ツイッター)を買収したイーロン・マスク氏が、社員に送った電子メールの一節の日本語訳である。2022年11月18日付日経夕刊の『激務か退職か、マスク氏迫る ツイッター社員に「踏み絵」』と題した記事の中で紹介された。

 ハードコア(hardcore)という文字を見ると、英国のバンドであるDischargeやG.B.H.の楽曲が頭の中に鳴り響くが、マスク氏は音楽のことを書いているわけではない。改めてインターネットで調べてみると日経クロステックには書けない意味が出てきたがそれもマスク氏のメールとは関係ない。

ハードコアとは何か

  Merriam-Webster辞書のオンライン版で調べたところ、形容詞のhardcoreには「characterized by or being the purest or most basic form of something」という意味があると出ていた。何とも訳しにくいが、最も純粋な何か、最も基本的な何かの型によって特徴付けられている、ということだろう。

 名詞のhardcoreについては「a central or fundamental and usually enduring group or part」と書かれている。これまた訳しにくい。何かの中心であり基本であり、ずっと続く集まり、ということだろうか。

 マスク氏が社員に送ったメールの原文を見てみよう。ハードコアは冒頭の一文に出てくる。

 “Going forward, to build a breakthrough Twitter 2.0 and succeed in an increasingly competitive world, we will need to be extremely hardcore.”

 ブレイクスルーをしてバージョン2.0と呼べる新たなツイッターを作るにはハードコアでなければならない。

 日経新聞の記者がハードコアの後にカッコ書きで「強硬」と追記した気持ちは分かるが、Websterの説明とマスク氏の原文を突き合わせると「強硬」はいま一つしっくりこない。

 マスク氏のメールは次のように続く。

 “This will mean working long hours at high intensity. Only exceptional performance will constitute a passing grade.”

 「これは長時間、猛烈に働くことを意味する」と日経が訳した通りである。ここまで引用したマスク氏の説明を日経は「激務」と要約し、記事の見出しに付けた。

 “This will mean”のThisは直前の文にあるhardcoreを指すから、そうなるとハードコアすなわち激務あるいは長時間労働になってしまう。インターネット上の反応を見ると、長時間労働を強いるマスク氏を批判する人、ツイッターの平均労働時間を調べて日本のそれと比較し「長時間ではない」と言う人、今までのツイッター社員がさほど働いていなかったのだから解雇は当然とマスク氏を支持する人など、様々だ。ただ概して労働時間の話になってしまったという印象だ。

 そうした中、会計パッケージソフトの開発を手掛けるフュージョンズの杉本啓代表取締役CEOが「hardcore は『本格的な』『中核的な』『筋金入りの』といった意味だから、仕事の中身を言っているのであって、仕事の強度(激務かどうか)については何も言っていない」と投稿していて、なるほどと思った。余計な話だが杉本氏は「ハードコア・パンクは長時間演奏することではない」とも書いていてこれには笑った。

  Merriam-Websterの説明を見ると、確かにハードコアに激務とか長時間労働という意味はない。もっともマスク氏が自ら補足している通り、ハードコアであろうとすると長時間、猛烈に働くことになるのだろう。ただしあくまでもハードコアであることが先で、長時間働くのは後である。

 回りくどい文章になってしまったが、日経の記事を読んで「そもそもハードコアとは何だろう」と思ったことが本稿を書くきっかけになったので、意味についてしつこく述べてみた。