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「基本の知恵」を伝える方法を考える

 「基本の知恵」が伝承されていない問題は重大であるが、解決の妙案はない。この話を勉強会でした際、「困ったことだ」と嘆くだけでは芸がないので対策として「歴史書が必要」と述べた。コンピューター利用の歴史を簡潔にまとめ、その中に基本の知恵を書いておく。だが勉強会の出席者から「現役の人は忙しいからそういう本は読まない」と言われてしまった。

 「そもそも日本にはコンピューターを教える大学が少なすぎる。米国ではコンピューターの仕事をしている人の9割は大学でコンピューターを学んでいる。日本はそうではない」という指摘が勉強会の出席者から出た。米国の大学では古くからある「基本の知恵」をしっかり教えているそうだ。とはいうものの問題を解決するために教育の改革を持ち出したり「米国では」と言ったりすることにさしたる効果はないと失礼ながら思っている。教育改革には時間がかかるし、ここは日本だから「米国では」を連呼しても仕方がない。

 勉強会の参加者から「若い人から言ってもらうことが大事」という意見も出た。なるほど「基本の知恵」を身に付けた若手が周囲に話してくれれば「年齢の差」はなくなるから聞いてもらえそうだ。そういう若手をどこで見つけるのか。若手が参加したくなるような勉強会あるいは交流会を作り、そこに自慢話をしない約束でメインフレーム老人が参加し、少しずつ理解者を増やしていけばよいかもしれない。

 「昔の話を聞いてもらえない」なら最新の話として説明する手がある。情報システムについて続々と新語が登場するが定義を聞くと古くから実践されてきた取り組みとほぼ同じであったりする。メインフレーム時代からある知恵にもっともらしい片仮名や英略語を新たに付け「これが最先端のやり方」と喧伝(けんでん)してはどうか。

 「誰でも自分で経験し、見聞きした範囲で物事を考え、判断する」以上、やはり経験してもらうのが一番だ。メインフレーム老人は現場からいなくなりつつあるので、聞く耳を持つ中堅に基本の知恵を伝える。中堅が現場で「視野を広げ、視座を高める」よう部下に働きかける。そういう中堅をどう探すか。かつての直属の部下や取引先の技術者に「最後のお願い」と言って頼めばやってくれるのではないか。

 基本の知恵を公的な標準や基準に盛り込んでおく。歴史書は読まなくても公的な何かであれば従わざるを得ない。各種の標準の冒頭には必ず用語の定義が書かれるから「言葉の定義が不一致」を回避できる。

 いくつかの案を挙げてみたがいずれも決め手に欠ける。メインフレーム老人の知恵がWeb青少年に伝わらない理由を裏返しただけの対策だからだ。「どうしても□□してしまう」「××が足りない」という問題があったとして「□□するな」「××せよ」と言うだけでは有効な解決策にならない。

 数年前、ベテランのプロジェクトマネジャーとここまで書いたようなことを巡って話をした。彼は若手をただ見守ると言った。「痛い目に遭わないと忠告は耳に入らない」からだ。あまりにも痛いと気づきを得るどころか病院に行くことになりかねないので、そうならないように気を配り、いざという時には介入するという。

 実は本稿に書いたことを毎日のように考えている。コンピューターや情報システムとはまったく関係ない、ある分野における「基本の知恵」を若手に伝えることが急務だが、どうしたらよいか分からない。分からないでは済まされないので引き続き考え、妙案が出たら報告したい。