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 売り上げが伸びないどころか減り気味で、利益もなかなか厳しい事業があった。別会社として独立させたので、今後は売り上げを年率7%以上伸ばしていく――。

 文章にしてみるとあり得ない話として読めてしまう。しかし実際にこれに挑戦する企業がある。2021年11月4日、ニューヨーク証券取引所に上場した米Kyndryl(キンドリル)である。キンドリルは米IBMのマネージド・インフラストラクチャー・サービス事業を引き継ぎ、アプリケーションを動かすインフラ、すなわちサーバーやクラウド、ネットワークの管理や運用を請け負う。

 キンドリルはIBMからスピンオフしたことで同社がビジネスの対象にできる市場の規模が2021年では4150億ドルになったとする。分社前の2400億ドルから1750億ドルも増えたというわけだ。この4150億ドル市場が年率7%成長、2024年には5100億ドル市場になると説明している。増えた市場をものにできれば市場成長率の7%かそれ以上伸ばせるという理屈である。

 この理屈を説明するためにキンドリルが作った図を見ると「従来のビジネス機会」に「キンドリルが手にする新しい市場」が加わると描かれ、新しい市場としてデータ関連サービスやクラウド関連サービスなどが挙げられている。これらをIBM時代にまったくやっていなかったわけではない。分社するとなぜ「新しい市場」の売り上げが増えるのか。

次世代インフラの相談役を目指す

 キンドリルの作戦は次の通りである。IBMの看板をあえて下ろすことで、IBM以外の大手IT企業と深く付き合っている顧客に、IBM以外の製品やサービスも含めて管理や運用のサービスを提案、提供していく。

 例えば社内のデータセンターに米Hewlett Packard Enterprise(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)のサーバーを設置し、米Oracle(オラクル)のデータベースを使い、さらに米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)のクラウドを利用している顧客に対し、「御社のインフラ全体を効率よく安全に運用できます」とキンドリルは提案できる。従来は主にIBMのサーバーとデータベースを使っている顧客から運用を請け負い、そこにデータ関連サービスやIBMのクラウドを提案していた。

 「だれが見ても日立の顧客、だれが見ても富士通の顧客、といった企業にキンドリルは入っていくことができるのか」。2021年12月9日に記者会見したキンドリルジャパン(東京・中央)の上坂貴志社長に聞いてみた。

 「まさに今朝、そういう顧客と話をした。『インフラの運用がどうしてもメーカー別に縦割りになっていて、それらをつなぐために社内の情報システム部門が苦労している。IBMには頼めなかったが今回の体制になれば相談できそうだ』と言っていただけた」(上坂社長)