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 「『デジタル省』や『デジタル庁』といった組織が存在して、私がそのトップに就いたわけではありません」

 ある仕事のために、台湾の政務委員(デジタル担当)、オードリー・タン氏について知る必要があり、初の自著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)を読んだところ、こう書かれており、感銘を受けた。

 デジタル省やデジタル庁が存在しないにもかかわらず、デジタル担当の政務委員(日本で言えば閣僚)としてタン氏はどのように仕事をしているのか。

 同書によれば「政務委員の一人として、私はデジタルを用いて問題のシェアあるいは橋渡しをする仕事を担当」する。台湾の行政院(日本で言えば内閣府)には32の部会(日本で言えば省庁)があり、政務委員は「複数の部会を横断的に見て、その間に橋をかけ、共通の価値観を見つけ出す」。この際、必要があればタン氏はデジタル技術を使う。

 「問題のシェアあるいは橋渡し」とあるように、タン氏が問題を直接解決するわけではない。インターネットを通じて重要な問題の指摘を広く受け付け、問題提起への賛同者が5000人を超えるとその問題について意見を集め、解決策を探っていく。解決のために法律を作ることもある。

 このやり方では「傾聴」と「寛容」が求められるとタン氏は述べる。「多くの人の意見を傾聴することで興味や時間のある人同士が集まり、共通の核心的な価値観を持つことが可能」となる。同時に「『他人から学び、考える』という行為を謙虚に行っていかなければ」ならない。

 加えて台湾では「青銀共創」という試みが盛んだとタン氏は書いている。青(青年)と銀(年配者)が組み、互いに学び合い、共に何かを創っていく。台湾に住む筆者の知人に聞くと、両親が共働きをしていたため祖父母に育てられた人が多く、青銀は仲がよいと教えてくれた。

 同じ仕組みを日本で実現できるだろうか。青年と年配者が寛容の心を持って互いの意見を傾聴し、学び、考え、日本の諸問題を解決する案をまとめる。それを受けた閣僚が霞が関にある複数の省庁を「横断的に見て、その間に橋をかけ、共通の価値観を見つけ出す」ことができるだろうか。