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 欧州連合(EU)の規制強化に伴い、米Apple(アップル)と米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)はこれまで続けてきた独自ルールの変更を余儀なくされそうだ。両社のビジネス慣行を巡っては競合企業などから批判の声が上がっており、EU競争当局が調査していた。アップルにはアプリ配信市場の開放が求められている。アマゾンには自社電子商取引(EC)サイトの「マーケットプレイス」における公正な競争条件が求められている。2023年以降、両社のEU域内ビジネスに影響が及びそうだ。

アップル、欧州で他社アプリストア容認へ

 ブルームバーグ通信やロイター通信は22年12月、アップルがEU域内で施行されるデジタル市場法(Digital Markets Act、DMA)を順守するため、スマートフォン「iPhone」とタブレット端末「iPad」で他社のアプリストアを容認する方針だと報じた。

 関係者によると、ソフトウエアエンジニアリングやサービス担当の従業員が準備を進めている。最終的に利用者は、外部の開発者(サードパーティー)が提供するアプリをアップルのアプリストア「App Store(アップストア)」を介さずにダウンロードできるようになる。23年に配布する次期基本ソフト(OS)「iOS 17」の欧州版でこの変更が施される見通しだ。

 アップルはこれまで一貫して、アプリを正規ストア以外からインストールする「サイドローディング」に反論してきた。同社の主張は「ハッカーやネット詐欺師がマルウエア(悪意のあるプログラム)をiPhoneにインストールさせることを許してしまう」というもの。セキュリティーとプライバシーのリスクが生じると懸念を示してきた。そのため同社は現在、サイドローディングされるアプリに対しても特定のセキュリティー要件を満たすよう義務付けることを検討している。その場合、アプリはアップルの認証を取得する必要があり、その過程でアップルが手数料支払いを求める可能性もあるとブルームバーグは報じている。

 EUのDMAは22年11月に発効した。ブルームバーグによると、今後数カ月で一部規則の適用が始まり、24年に全規則の順守が義務化される。同法は、アップルやアマゾンのほか、米Google(グーグル)、米Meta(メタ)などの市場支配力に制限をかけ、競争阻害行為の抑止を狙っている。基準は、時価総額が750億ユーロ(約10兆5200億円)以上か、EU域内の年間売上高が75億ユーロ(約1兆500億円)以上の巨大IT(情報技術)企業。月間利用者数が4500万人以上、年間企業利用件数が1万件以上のIT企業も対象になる。EUはこれらを「ゲートキーパー(門番)」に指定し、規則を順守させる。

 ゲートキーパー企業は、自社製品や自社サービスを、プラットフォームに参加する他社の製品・サービスよりも優遇することを禁じられる。違反すれば、世界年間売上高の最大10%の制裁金を科される可能性がある。違反が繰り返される場合は上限が20%に引き上げられ、企業買収(M&A)が禁じられるなど他の罰則が科される場合もある。

 ブルームバーグによれば、アップルの22年9月末までの世界年間売上高は約4000億ドル(約52兆4400億円)。もし最大の制裁金を科された場合、800億ドル(約10兆4900億円)になる。一方、アップルのApp Storeによる収益は、同社全売上高の約6%。欧州だけでは全体のわずか2%以下となる。欧州におけるApp Storeの収益は、単純計算で80億ドル(約1兆500億円)となり、制裁金のほうが高くつくことになる。

 ロイターや米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、アップルがサイドローディングを容認すれば、競合他社製のアプリストアがアップルのモバイルプラットフォームになだれ込むと報じている。ロイターによると、英調査会社CCSインサイトのベン・ウッドCMO(最高マーケティング責任者)は、「近い将来、さまざまなアプリストアが雪崩を打って(iPhoneに)流入してくる」と指摘する。「『有志連合』は生まれつつある。彼らにはアップルへの税金とみなしている決済手数料を支払わなくても済むという共通の利益がある」(同氏)という。

 WSJによると、大手ゲーム配信企業にとっては、ゲーム特化アプリストアの道が開かれることになる。例えば、米Microsoft(マイクロソフト)はモバイルゲームストアの立ち上げに強い意欲を示しているという。同社ゲーム部門責任者のフィル・スペンサー氏は22年10月、アップルとグーグルによる独占問題を解決したいと述べたという。

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焦点はアップルによる外部決済システムの容認

 その一方で、アップルは、自社決済システムか外部決済システムのいずれかを利用者が選べるようにするか否かについて、また、どのように外部決済システムを利用できるようにするかについて、現時点で結論を出していない。

 ただし、EUのDMAには、アップルのようなプラットフォーム企業に対し、外部企業のサービスがプラットフォーム企業のサービスと同じアクセス権を持つことを認めるよう要求する条項がある。

 これに従い今後、利用者が外部決済システムを選べるようになれば、アップルは有料アプリやサブスクリプション(継続課金)、アプリ内有料コンテンツから徴収する販売手数料収入を得られなくなるか、手数料収入が減ることになる。

 WSJによると、アップルは近年、その成長の原動力としてのサービス事業に期待し、この部門のテコ入れを図っている。22年7〜9月期におけるサービス事業の売上高は前年同期比5%増の192億ドル(約2兆5200億円)だった。21年度通期では約680億ドル(約8兆9200億円)だった。App Storeの販売手数料収入はその約30%を占め、その営業利益は同社の営業利益全体の約10%になる。

アップルの部門別売上高(21年7~9月期と22年7~9月期、および増収率)
アップルの部門別売上高(21年7~9月期と22年7~9月期、および増収率)
(出所:独Statista https://www.statista.com/chart/16845/apple-quarterly-revenue-by-product-category/)
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