米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)が米国と英国で、対面式の書店「Amazon Books(アマゾン・ブックス)」を含む、計68の小売店を閉鎖すると複数の米メディアが2022年3月2日に報じた。同社全体の売上高は順調に伸びているが、これら実店舗事業は成長が鈍化している。リアル店舗戦略の見直しの一環として撤退を決めたという。
米CNBCなどによると、閉鎖対象となるのはAmazon Booksのほか、EC(電子商取引)サイトで評価の高い商品を集めた「Amazon 4-star(アマゾン・4スター)」、そしてショッピングモール内の小規模店「Amazon Pop Up(アマゾン・ポップアップ)」。
アマゾンは15年11月に同社初の実店舗としてAmazon Booksをオープンした。1号店の場所は本社があるワシントン州シアトル。その後店舗数を増やし、現在米国の13州・地域で計24店を営業している。アマゾンのECサイトで顧客の評価が四つ星以上の商品をそろえたAmazon 4-starは18年にオープンした。現在、米国の25州で33店を営業中。モール内のAmazon Pop Upについては19年に多くの店を閉めており、米国では現在8州・地域に9店が残っている。これらがすべて閉鎖されるという。閉鎖時期は場所によって異なるとCNBCは報じている。
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撤退の背景には実店舗事業の成長鈍化があるとみられている。アマゾンが先ごろ公表した年次報告書(FORM10-K)によると、21年における実店舗売上高は170億7500万ドル(約1兆9700億円)。前年比で5.2%増だったが、2年前と比べると0.7%減少した。米ニューヨーク・タイムズによると18年の実店舗売上高は約172億ドル(約1兆9900億円)。18年から21年にかけてアマゾン全体の売上高は2倍に増えたが、この期間の実店舗売上高は減少した。21年におけるアマゾンの全売上高は4698億2200万ドル(約54兆2500億円)だったが、このうち実店舗が占める割合は3.6%だった。
ロイターによると今回の一部店舗閉鎖について、米証券会社Wedbush Securities(ウェドブッシュセキュリティーズ)のアナリスト、マイケル・パッチャー氏がアマゾンの判断を評価しているという。同氏は「インターネットに精通したアマゾンがニッチ市場である対面式書店から撤退するのは正しい判断だ。(アマゾンと対面式書店は)EV(電気自動車)大手の米Tesla(テスラ)がガソリンスタンドを経営するのと同じくらい悪い組み合わせだ」と指摘した。
このアナリストは少し先をみているのかもしれない。かつての米国の実店舗書店大手がアマゾンによるEC勢力によって経営破綻に追い込まれたように、今後はテスラの台頭とEV化に伴いガソリンスタンドも同様の末路をたどる。次世代に向かう企業が旧世代事業を営むことの矛盾を指摘しているようだ。
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ニューヨーク・タイムズによると、アマゾンの広報担当者であるベッツィー・ハーデン氏は「我々は引き続き、優れた実店舗の買い物体験とテクノロジーの開発に取り組んでいく」と述べた。アマゾンは22年1月に「Amazon Style(アマゾン・スタイル)」と呼ぶ、同社初の衣料品販売実店舗を22年後半にロサンゼルス市郊外に出店すると発表した。スマートフォンのアプリを利用した買い物体験が特徴の店舗だ。
同社は今後、この新業態店と既存の食料品店に実店舗の経営資源を集中させる。アマゾンは17年に、それまでの同社によるM&A(合併・買収)の10倍以上に上る137億ドル(約1兆5800億円)を投じ、高品質スーパーマーケットチェーン「Whole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)」を傘下に収めた。その店舗数は現在500店以上ある。
同社は、直営スーパー「Amazon Fresh(アマゾン・フレッシュ)」や、レジなし精算のコンビニエンスストア「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」なども多店舗展開中。Amazon Goの無人決済システム「Just Walk Out(ジャスト・ウオーク・アウト)」はAmazon Freshにも導入している。米ウォール・ストリート・ジャーナルによるとアマゾンは最近、首都ワシントン近郊に初のJust Walk Out対応ホールフーズをオープンした。21年9月にはホールフーズの店舗にも導入すると明らかにしていた。
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