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 米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)は現在、創業以来最も厳しい財政状況の真っただ中にあるようだ。同社は新型コロナウイルス禍での需要増に対応するため人員採用と設備投資を進めてきた。だが2022年になると特需が終わり、成長が鈍化。軌道修正を余儀なくされた。2022年11月には過去最大規模のレイオフ(一時解雇)に着手し、23年1月までに計1万8000人のオフィス職従業員を削減した。その一方で、重点分野への投資は拡大する意向だ。同社の最新動向を見ながら、その全体像を探る。

成長減速で航空貨物輸送を縮小

 米経済ニュース局のCNBCは23年2月、アマゾンの航空貨物事業「Amazon Air(アマゾン・エアー)」が、貨物輸送を減らす計画だと報じた。Amazon Airの運行事業者である米航空貨物会社エア・トランスポート・サービシズ・グループ(ATSG)によると、現在アマゾンにリース提供しているボーイング「767-200」貨物機のうち5機が23年5~9月に契約満了となるが、アマゾンは契約を更新しない意向だ。

 ATSGは、Amazon Airの大部分の運行を手がけている。ATSGの顧客にはドイツ物流大手DHLがあり、アマゾンとDHLは共に、今後の運行便数を減らし1機当たりの飛行時間も減らす予定だとATSGは説明している。また、アマゾンとDHLは、陸・空の輸送や物流ネットワークを調整中だという。これによって、23年前半における米国経済成長の減速と消費支出の低下に対応するもようだ。

 航空貨物運賃の指標となるTACインデックスによると、運賃は23年1月30日までの1年間で33.5%下落した。国際航空運送協会(IATA)によると、22年11月の航空貨物輸送量は前年同月比で14.2%減少し、輸送能力は同1.9%減少した。

 アマゾンは、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)に伴う電子商取引(EC)とクラウドサービスの需要増で事業を急拡大してきた。従業員数を2年間で2倍に増やし、フルフィルメントセンター(発送センター)やソートセンター(仕分けセンター)、デリバリーステーション(宅配ステーション)などの物流ネットワークも2年でほぼ2倍に拡大した。

 だがその後巣ごもり需要が一服すると成長は鈍化した。同社の22年1~3月期の売上高は前年同期比7%増の1164億4400万ドル(約15兆9200億円)で、1~3月期として過去最高を更新したものの、伸び率は過去10年間で最も低い水準となった。純損益は38億4400万ドル(約5300億円)の赤字で、15年1~3月期以来7年ぶりの最終赤字に転落した。

 続く22年4~6月期も20億2800万ドル(約2800億円)の赤字だった。22年7~9月期は純利益が28億7200万ドル(約3900億円)となり、3四半期ぶりに黒字化。22年10~12月期は純利益が2億7800万ドル(約380億円)と、引き続き黒字だったものの、22年の年間赤字額は27億2200万ドル(約3700億円)に上った。

 米ブルームバーグによると、アマゾンは専用機「Amazon Air」をリースと自社購入分合わせて約100機運用している。だが、最近はその余剰貨物スペースを他社に貸し出すことを検討している。ハワイとアラスカからの復路便にパイナップルやサーモンを積載して輸送するサービスを検討中だという。事業成長が鈍化する中、貨物機の余剰スペースを利用し、収益性を高めたい考えだとブルームバーグは報じている。

 アマゾンが航空貨物事業のAmazon Airを始めたのは16年だった。21年8月には、米ケンタッキー州の航空貨物施設が完成し、業務を開始した。21年1月には、ボーイングの中型旅客機「767-300」計11機をカナダのウエストジェット航空と米デルタ航空から購入した。現在はATSGのほか、米アトラス・エア・ワールドワイド・ホールディングスなどがAmazon Airの運行事業者となっている。

 20年には、新型コロナ禍での旅客需要低迷を背景に米格安航空会社(LCC)のサン・カントリー航空とも提携。ボーイング「737-800」を貨物機に改造した。アマゾンは米ゼネラル・エレクトリック(GE)の航空機リース部門であるGEキャピタル・アビエーション・サービシズ(GECAS)とも提携し、機材をリース調達している。

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