米Apple(アップル)は2022年3月30日に「リーダーアプリ」と呼ばれる雑誌や新聞、書籍、動画、音楽などの閲覧・視聴用アプリで、利用者を外部ウェブサイトに誘導するためのリンクを設置できるようにした。
同社のアプリストア「App Store(アップストア)」を調査していた日本の公正取引委員会と和解したことに伴い、世界各地で規約の一部を改定すると21年9月に明らかにしていた。
「アップルは責任を負わない」明示を義務化
公取委は、アップルがアプリ開発者に対し利用を義務づけている自社決済システムについて、反競争的行為がないかどうかを調べていた。アップルは公取委との和解に基づき22年初頭から一部アプリを対象に、手数料の支払いを回避しやすくする措置を取るとしていた。その内容はアプリ内に開発者のウェブサイトへのリンクを設置することを容認するというもの。開発者はリンクから利用者を自社サイトに誘導する。利用者は外部決済サービスで支払いを済ませられるようになる。
アップルは今回、規約の一部を改定し開発者向けブログで公開した。それによると、リーダーアプリの開発企業は許可申請を出し、アップルの承認を経て外部リンクを設置できるようになる。
同社はアプリ内リンクに関するルールの詳細も明らかにした。例えば、リンク画面では外部サイトで利用できるサービスの料金表示を禁じる。外部サイトに移動する直前にポップアップ画面を出し、「利用者と開発者間の取引において、アップルはプライバシー・セキュリティー保護の責任を負わない」といった文言を明記することも要求した。このほか外部サイトの表示許可を得たアプリはアップルの決済システムを利用できなくなる。
前述した通り、対象となるのは、リーダーアプリと呼ばれる新聞、書籍、動画、音楽などの閲覧・視聴アプリのみ。個別指導や医療相談、不動産物件の内覧、フィットネスといったリアルタイムのオンラインサービスは対象外となる。App Storeに大きな収益をもたらしているゲームアプリも除外した。
関連リンク アップルの開発者向けブログ アップルの発表資料 米CNBCアップル決済を回避するリーダーアプリ
アップルは開発者がデジタルサービスやサブスクリプション(継続課金)サービスを「iPhone」や「iPad」向けアプリ内で販売する際にアップルの決済システムを使うように義務づけており、その際に販売額の15〜30%に相当する手数料を徴収している。これを嫌う一部の開発者は、アプリ内でコンテンツを購入できないようにしている。
スウェーデンの音楽配信大手Spotify Technology(スポティファイ)のアプリでは有料プランへの切り替えができず、有料版に移行するにはスポティファイのウェブサイトで手続きする必要がある。米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)は、電子書籍アプリ「Kindle(キンドル)」のiPhone版でコンテンツを販売していない。電子書籍を購入するためにはアマゾンのウェブサイトを訪れる必要がある。
アップルはApp Storeの商慣行に対する批判をかわすために一定の譲歩を示してきた。21年8月には、アプリ開発者らが起こしていた集団訴訟で和解。これに伴い開発者がアカウント登録を通じて入手した利用者の電子メールアドレス宛てにメッセージを送り、他の決済方法を案内することを容認した。21年1月にはApp Storeで得た年間収益が計100万ドル(1億2000万円)以下の開発者を対象に決済手数料の料率を30%から15%に下げた。
しかし、その恩恵を受けにくいゲームアプリ大手の米Epic Games(エピック)などはアップルに反発している。エピックは決済システムの利用義務や高額な手数料が反トラスト法(独占禁止法)に違反するとして20年8月にアップルなどを提訴した。米カリフォルニア州の連邦地裁は21年9月の判決で、アップルが定める禁止事項はカリフォルニア州の不当競争法(UCL)に違反するとし、外部リンクの設置容認を命じた。
だが、21年12月、米連邦控訴裁判所(高裁)はアップルが求めていたアプリ決済ルール見直し命令の一時停止請求を認める判断を下した。この法廷闘争は長期化するもようで、アップルはその間App Storeに大きな変更を加えることなく従来通り事業運営できるとみられている。
関連リンク ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ) CNBC