米Google(グーグル)、米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)、米Facebook(フェイスブック)、米Apple(アップル)のいわゆる「GAFA」は 巨大な収益基盤を背景に、規制対策費に巨額を投じている。当局に反トラスト法(独占禁止法)訴訟を提起され、厳しい調査を受けながらも、黙って現状に甘んじる気はないようだ。むしろ最近は当局に「反撃」する姿勢さえ見せている。
アマゾン、反対派のカーン委員長外しを要求
アマゾンが、同社に対する米連邦取引委員会(FTC)の反トラスト法調査からリナ・カーン委員長を外すよう求める嘆願書を提出したと、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)や米CNBCなどが2021年6月30日に報じた。アマゾンは、長年同社の商慣行を批判してきたカーン氏が先入観を持っており、同氏の下では公平な調査が行われないと主張している。
カーン氏は反トラスト法・競争法を専門とする法学者。米議会下院司法委員会・反トラスト小委員会は20年10月にGAFAを対象にした同法調査報告書をまとめており、カーン氏はこれに携わった。21年6月にはバイデン米大統領の指名に基づき、反トラスト法を所管するFTCの委員長に史上最年少で就任した。
FTCはGAFAなどの米巨大ITを対象に反トラスト法違反の調査を進めている。アマゾンは21年5月、スパイ映画「007」シリーズなどで知られる米映画製作大手メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)を買収すると発表したが、WSJによると、この買収案件もFTCが調査する見通しだ。
カーン氏のキャリアや著作、アマゾンと利害対立か
アマゾンは21年6月30日に提出した25ページに及ぶ嘆願書で、「カーン委員長はこれまで当社に対する批判や、当社が法に違反しているという主張を繰り返してきた。合理的なオブザーバーなら、同氏がもはや当社の抗弁を、先入観を持たずに検討することはできないと判断するだろう」と述べた。
カーン氏は米エール大法科大学院の学生だった17年にアマゾンによる競争阻害を新たな枠組みで判断すべきだと提言する論文「アマゾンの反トラスト・パラドックス」を発表。独占状態を抑制できない現行法の問題点を指摘して脚光を浴びた。
CNBCによると、従来の反トラスト法の枠組みは消費者保護を焦点に当てており、主に「価格つり上げ」や「選択肢の減少」によって生じる消費者の不利益を問題視する。しかし、GAFAなどのIT大手はサービスを無料・安価で提供しており、この枠組みで規制することが難しい。そこでカーン氏は反トラスト法の執行範囲を広げるべきだと提唱している。例えば、自社プラットフォーム上で中小企業と競合するビジネススタイルや、原価割れ価格で他の企業を市場から排除する「略奪的価格設定」に注目する必要があるとしている。
アマゾンはカーン氏の主張について、法改正の手続きを踏まずに枠組みを変える狙いがあると批判している。嘆願書では、「カーン氏は恐らく持論を変えることはないだろう。もしそうするのなら、彼女のキャリア形成の基盤となっている、過去何年もの著作や発言を自ら否定することになる。彼女がFTCの委員長に就任した今、懸念はさらに高まった」とも述べた。
つまり、「カーン氏はそのキャリア形成においてアマゾンが不可欠だった」と同社は主張。特定の企業に対する反対派の急先鋒(せんぽう)が反トラスト法を所管する政府機関の長に就任したことを問題視している。WSJやCNBCによると、米国では利害対立の可能性があるこうした人事について、調査を受けている企業側が嘆願という形で異議申し立てできる制度がある。まれなことではあるが、これまで過去のキャリアや著作、明白な主張を理由に、企業や団体がFTC委員長や同委員の除外を求め、認められた事例があるという。
関連リンク:ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ) 関連リンク:CNBC 関連リンク:アマゾンが提出した嘆願書(WSJ)連邦地裁、フェイスブックの独禁法違反認めず
フェイスブックに追い風が吹いた。FTCと米ニューヨーク州などの48州・地域の司法長官は20年12月、フェイスブックを反トラスト法違反の疑いで提訴した。これに対し、米首都ワシントンの連邦地裁は21年6月28日、「(フェイスブックが交流サイトの)SNS市場を独占していることを示す法的根拠が不十分だ」としてFTCの訴状を棄却。州・地域の司法長官による訴訟は、訴えそのものを棄却した。FTCは30日以内に内容を修正して訴状を再提出することができる。
ただ、従来型のモノの販売競争を前提に消費者不利益を判断する現行法の枠組みでは、巨大ITを規制することは困難だと指摘されている。
FTCらはフェイスブックが米国のSNS市場で6割以上のシェアを持っており独占に当たると主張していた。12年に買収した写真共有アプリ「Instagram(インスタグラム)」と14年に買収した対話アプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」を分離するよう求めた。
関連リンク:CNBC 関連リンク:ロイター