全4140文字
PR

 就任から1年を迎えた米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)のアンディ・ジャシーCEO(最高経営責任者)は、同社史上例のない取り組みに奔走している。同氏が抱える問題は増え過ぎた経営資源だ。アマゾンは新型コロナ禍のEC(電子商取引)需要増に対応するため物流施設を急拡大してきたが、ここに来て需要が減速し施設の収容能力に余剰が生じている。

アンディ・ジャシーCEO
アンディ・ジャシーCEO
(出所:米Amazon.com)
[画像のクリックで拡大表示]

東京ドーム20個分の倉庫スペースを賃貸し

 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、アマゾンは少なくとも1000万平方フィート(約92万9000平方メートル、東京ドーム約20個分)の倉庫スペースを、サブリース業者を通じて賃貸しする計画だ。最終的な賃貸スペースはその2~3倍になる可能性もあると関係者は話している。賃借中の物件については契約の終了や再交渉を検討中だという。

 ブルームバーグ通信によると、アマゾンは米ニューヨーク州や米ニュージャージー州、米カリフォルニア州、米ジョージア州などで必要以上の倉庫スペースを抱えている。アマゾンの広報担当者は「当社のニーズにもはや合わなくなった施設の財務負担を軽減できる。サブリースは多くの企業が不動産の資産管理に用いる一般的な手法だ」と述べた。

 創業以来事業を急拡大してきたアマゾンだが、先ごろ同社史上最大規模の業績悪化に見舞われた。WSJによるとジャシーCEOは、ジェフ・ベゾス前CEOの下で21年7月以前に進んでいたEC事業の針路を反転させる。同氏は低迷してきたEC事業の売り上げを回復させ、他の事業部門の成長を促したいとも考えているという。

 1997年からアマゾンの取締役を務めるパティ・ストーンサイファー氏は「我々はパンデミック下で急成長を経験した。だがEC事業を軌道修正するために、やることがいくつかあるとジャシー氏は感じている」と話している。「そのため彼は今、供給や労働、配送スピードの改善に取り組んでいる」(ストーンサイファー氏)。

物流拠点が急拡大、予測のずれが業績に影響

 WSJによると、アマゾンは20年から22年3月までに倉庫や仕分けセンターなどの物流拠点を数百カ所新規に開設し、同期間に従業員数を2倍の160万人超に増やした。この施策が奏功し、売上高は20~21年に60%以上増加し、利益は3倍近くに増えた。しかし、その後のEC需要は同社の予測を下回り、物流施設の収容能力が過剰になった。

 この予測のずれがアマゾンの業績に響いた。同社の22年1~3月期決算は、売上高が前年同期比同7%増の1164億4400万ドル(約15兆7100億円)。1~3月期として過去最高を更新したものの、伸び率は過去10年間で最も低い水準となった。直営EC事業の売上高は511億2900万ドル(約6兆9000億円)と同3%減少した。WSJはアマゾンが16年にこの売り上げ項目を開示して以降最悪の結果だったと報じている。また、22年1~3月期の純損益は38億4400万ドル(約5200億円)の赤字で、15年1~3月期以来7年ぶりの最終赤字に転落した。

 アマゾンのブライアン・オルサブスキー最高財務責任者(CFO)は生産性の損失やインフレ、物流倉庫の過剰キャパシティーなどにより22年1~3月期に約60億ドル(約8100億円)の追加費用が発生したと説明した。このうち物流倉庫から発生した追加コストは20億ドル(約2700億円)。ブルームバーグによると、アマゾンは余剰倉庫スペースが原因で発生するコストが22年上半期に100億ドル(約1兆3500億円)膨らむと見込んでいる。

関連リンク WSJ(物流投資の後退と22年1~3月期決算) ブルームバーグ通信(物流投資の後退と22年1~3月期決算) アマゾン(22年1~3月期決算資料) WSJ(アマゾンCEO就任1年と1~3月期決算) WSJ(アマゾンのブライアン・オルサブスキーCFOの声明)