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 2022年11月22~23日、米Apple(アップル)からスマートフォン「iPhone」の製造を請け負う、台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の中国・鄭州工場(河南省鄭州市)で従業員の大規模な抗議活動が起きた。

 抗議には数百人が参加した。従業員のチャットグループで広まった動画には、屋外のテントが引き倒され、ガラス製の建物入り口ドアが破壊されている様子や、警察官と工場の警備員とみられる防護服を着た人が従業員を殴ったり、警棒でたたいたりしている様子が映っていた。抗議活動は、新たに雇った工員に対する手当の支払いや工場内の衛生環境の不備などを巡って起きた。

 ロイター通信によると、鴻海はiPhoneにとって最大の電子機器受託製造サービス(EMS)企業。世界のiPhone出荷台数の70%を生産しており、鴻海の売上高の45%を占めている。抗議騒動が工場の稼働状況に影響を及ぼしているとみられ、年末商戦のiPhone販売や鴻海の業績に影響がありそうだと指摘されている。

中国の「iPhoneシティー」で数千人もの従業員が逃げ出す

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、鴻海は22年11月23日、「手当に関する契約上の義務を常に履行しており、事件の再発を防ぐために従業員や政府と連絡を取り合う」と述べた。鴻海は翌24日にも声明を発表し「新人研修の過程でコンピューターシステムへの入力ミスがあり、その結果、新規採用者が既存従業員向けの契約をすることになった」と経緯を明らかにし、「新規採用者には、募集案内に記載した通りに支払う」と釈明した。

 従業員20万人超を抱える鴻海の鄭州工場では、多くの従業員が近隣の宿舎に住んでいる。同工場は、新型コロナウイルスを封じ込める中国政府の「ゼロコロナ政策」の下、従業員が宿舎と工場間のみを移動する「クローズドループ」操業を行うという条件で営業が許可されていた。

 同工場では22年10月下旬、新型コロナの感染者が確認され、外出を禁じられた従業員らが集団で脱出した。その後工場は人員補充のために工員を募集した。これに伴い鴻海は手当の支給や給与の引き上げを明らかにした。ロイターによると工場の混乱は、こうした工員が引き起こしたとみられる。地元当局の関与が、手当の支給日や宿泊施設などの問題で新規採用者の誤解を招いた可能性もあるという。

 一方、鴻海のクローズドループ操業について、従業員は十分な食事が提供されるかどうか不安を抱いていた。工場内における不十分な新型コロナ対策も懸念した。混乱の直前には、会社が生産目標を達成するために感染者も働かせているといううわさが流れた。これによって、さらに数千人もの従業員が工場から逃げ出したとWSJは報じている。

 WSJによれば、鴻海は事態を収拾するため仕事を辞めて帰郷する新規採用者に1万人民元(約19万1500円)を支払うことを提案した。多くがこれを受け入れ、22年11月25日までに2万人以上が工場を去った。鴻海はその後、22年12月から23年1月まで工場に残るフルタイム従業員を対象に月1800米ドル(約24万円)の手当を支給することを約束した。

 工員の離職による生産への影響は、経験と技能を持つ既存従業員に対して取られた隔離措置の影響に比べて小さいという。だが、「iPhoneシティー」として知られる巨大工場における今回の騒動は、アップルの中国巨大サプライチェーン(供給網)が抱えるリスクをあらためて浮き彫りにしたと、米ブルームバーグ通信は報じている。

 香港のカウンターポイント・リサーチによると、鴻海の鄭州工場では、iPhone 14の普及モデル(14/14 Plus)の80%以上を、上位モデル(14 Pro/14 Pro Max)の85%を製造する計画。だが、今やこの目標を達成できるか分からない状況だ。

 これに先立つ22年11月初旬にアップルは声明を出し、「鄭州の主要な14 Pro/Pro Maxの組み立て施設は生産能力を大幅に縮小して操業しており、顧客の手元に届くまでの待ち時間が長くなることが予想される」と説明した。米家電量販大手ベストバイは22年11月22日、年末商戦の店頭では、14 Proと14 Pro Maxが品薄になるとの見通しを示した。

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