1999年9月30日に発生した茨城県・東海村でのジェー・シー・オー(JCO)での臨界事故を機に、原子力発電所には緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)の設置、および、定期的な原子力防災訓練の実施が義務付けられた*1。その後、2011年の福島第一原子力発電所事故によって、オフサイトセンターの設置位置と機能の改善がなされた。
静岡県は、福島第一原発事故の1年前、2010年3月23日に「静岡県防災・原子力学術会議」を設置*2。筆者は2014年4月1日に同会議の原子力分科会委員に任命された。それから約6年間、同委員会の定例会合の他、同県にある浜岡原子力発電所(浜岡原発)の現場調査や同県牧之原市に新たに設置されたオフサイトセンターの現場調査、さらに毎年実施される広域避難訓練に参加している。
静岡県危機管理部原子力安全対策課の資料によれば、静岡県は2000年から毎年、南海トラフ地震に備えて300~6000人の参加者による広域避難訓練を実施している。日本で最も熱心で現実的な原子力防災訓練と言え、その内容と実績は原子力発電所を有する他の都道府県の模範となるものと思う。
本稿では、2020年1月28、29日に実施された広域避難訓練のうち、これまでになかった29日の放射能防護施設内での屋内退避訓練の実施概要とその意義、課題について報告する。
国内2例目のエアシェルター
2020年1月28、29日に開催された「令和元年度静岡県主催原子力防災訓練」は、静岡県原子力防災センターにおける図上訓練(28日)、広域避難訓練と屋内退避訓練(29日)から成る。筆者は、静岡県防災・原子力学術会議原子力分科会の委員として、29日10:00~12:00に実施された屋内退避訓練に参加した。
今回実施された屋内退避訓練は、静岡県御前崎市の「比木体育館」内に避難用のエアシェルターを設置するというもの。同体育館は浜岡原発からおおよそ5km圏内の予防的防護措置を準備すべき区域(PAZ:Precautionary Action Zone)内にあり、主に高齢者や要介護者などの「要配慮者」が本格避難前に一時的に避難する施設を想定している。
エアシェルター自体は、同体育館の大きさに合わせた特注品で、電源や送風機、放射能除去フィルター、送風ホース、エアシェルターなどシステム全体の設置費用は約1億5000万円。放射能防護施設として放射能除去フィルターを備えており、放射能を1万分の1まで低減できるとされている。3日間の非常食備蓄も備えている。広域避難施設としてエアシェルターを設置した例は過去に愛媛県で1件あるのみで、今回は国内2例目という。以下、エアシェルターの概要を写真で紹介する。

