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装飾の復権─デジタルとモノの結節点

 「ポストモダンの衰退とともに否定された“装飾”が今、見直されている」。建築史家の五十嵐太郎氏のほか、建築ジャーナリストの磯達雄氏も同様の見方だ。

 五十嵐氏は、ポストモダン期との違いとして、設計段階でのコンピューターの活用や、構造材との一体化を指摘する。そのどちらにも当てはまるのが、三井嶺氏(三井嶺建築設計事務所代表)の設計による「日本橋旧テーラー堀屋改修」だ〔写真2〕。

〔写真2〕日本橋旧テーラー堀屋改修。設計は三井嶺建築設計事務所。2016年に改修を完了し、現在は江戸切子の店が入居している(撮影:Jérémie SOUTEYRAT)
〔写真2〕日本橋旧テーラー堀屋改修。設計は三井嶺建築設計事務所。2016年に改修を完了し、現在は江戸切子の店が入居している(撮影:Jérémie SOUTEYRAT)
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 築約90年の木造2階建て・店舗併用住宅の耐震改修。店舗部の柱に設置した網状の耐震補強フレームはダクタイル鋳鉄製で、構造上・製造上、極限まで細くした。構造設計では3Dパラメトリックモデリングツール(「021.住宅シミュレーション」参照)を用いた。

 設計者の三井氏は1983年生まれ。「僕たちの世代にはポストモダンへの抵抗感はない。装飾は本来、人間的なものだと思う。表面的なものと捉えられがちだが、装飾を構造にしてしまえばはぎ取られない」と三井氏は言う。デジタル世代の新たな構造表現とみることもできそうだ。

住宅シミュレーション─経験と勘から数値検証へ

 3D(3次元)の解析技術が普及し、中小の設計事務所でも設計に用いやすくなってきた。変革の主役は3Dパラメトリックモデリングツールの「Grasshopper(グラスホッパー)」だ。

 グラスホッパーは、複雑な曲面を3Dでデザインできる「Rhinoceros(ライノセラス)」用のプラグインソフト。マウスなどの入力操作をプログラム化して、数式などのアルゴリズムによって自動化する。特色は、設定値(パラメーター)を画面上の「スライダー」で変えていくと、その条件を反映した立体の3D形状が画面上に即座に表示されることだ。

 グラスホッパーの一般化によって今後、大きく変わりそうなのが住宅設計だ。多くの場合「経験と勘」で図面化していたものが、数値を根拠に形を決められるようになる。

 例えば、設計事務所SUEP.(スープ)が設計した4階建ての集合住宅「風光舎」(日経アーキテクチュア2017年8月10日号「ビルの谷間に向く窓で 採光・通風条件を最適化」掲載)では、各階の開口部の大きさ・位置・角度を決める際に、ライノセラスとグラスホッパーを用いて、2916パターンを検証した。