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リレーショナル・アーキテクチャー ─関係を育て形に導く

 「リレーショナル・アーキテクチャー」は美術専門雑誌「美術手帖」が2015年1月号の特集で掲げたキーワードだ。直訳すれば「関係性の建築」。この特集の一部を執筆した五十嵐太郎氏が提案した言葉である。

 美術史にも詳しい五十嵐氏によると、もともと美術界では「リレーショナル・アート(関係性の芸術)」という言葉がよく使われていた。固定した制作過程ではなく、出来事や共同作業、出会いなどを重視して制作した芸術を意味する。

 五十嵐氏は「リレーショナル・アーキテクチャー」をこう説明する。「近年、関係者をまとめて“場”をつくる『コミュニティー・デザイン』に注目が集まっていた。そういうプロジェクトでは極端にデザイン性のないものもあり、作家的な建築家と敵対的な関係に見られるようになってしまった。だが、実際にプロジェクトをまとめるには、関係性を構築したうえで、関係者が共感できる強い形が必要だ」

 五十嵐氏がこれこそ「リレーショナル・アーキテクチャー」と感じたプロジェクトが「とおり町Street Garden」だ〔写真4〕。2016年夏、広島県福山市に完成した。設計はUID(福山市)の前田圭介代表。場所はJRの高架と国道2号を結ぶ2つの商店街で、約400mに及ぶ。

〔写真4〕とおり町Street Garden。設計はUID。天蓋を支えていた既存柱の柱脚はコンクリートと鋼管杭で補強。全体をシルバーに塗装した。台風時などのワイヤの耐久性は、UIDの事務所に設置して確かめた。2017年度のグッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)を受賞した(撮影:ナカサアンドパートナーズ)
〔写真4〕とおり町Street Garden。設計はUID。天蓋を支えていた既存柱の柱脚はコンクリートと鋼管杭で補強。全体をシルバーに塗装した。台風時などのワイヤの耐久性は、UIDの事務所に設置して確かめた。2017年度のグッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)を受賞した(撮影:ナカサアンドパートナーズ)
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 築30年の老朽化したアーケードの天蓋を撤去し、代わりに7000本のステンレスワイヤをレースのように張った。これにはシンボル的な意味と、電柱や電線を隠す目的がある。

 約100件の商店主と直接話をし、店舗ごとに入り口脇の植栽スペースをデザインした。検討開始から完成まで5年かかった。

 「アーケードの柱を残して記憶を伝えつつ、全く新たな空間を生み出した。こうした役割がこれからの建築家に求められているのではないか」と五十嵐氏は言う。