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AI制振─人工知能が建物の揺れを制御

〔写真2〕AIを活用するアクティブ制振システムの実験の様子。三次元振動台で超高層ビルの特性を再現した模型を揺らした。パッシブ制振より建物の揺れを小さくできると確認した(撮影:NTTファシリティーズ)
〔写真2〕AIを活用するアクティブ制振システムの実験の様子。三次元振動台で超高層ビルの特性を再現した模型を揺らした。パッシブ制振より建物の揺れを小さくできると確認した(撮影:NTTファシリティーズ)
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 アクティブ制振は発生した振動に対して逆向きの力が働くようコンピューターが計算して電動アクチュエーター(電力でモーターを動かして伸縮する装置)を作動し、揺れを制御する技術だ。超高層ビルの揺れを制御するのに有効とされている。従来のアクティブ制振は、事前に決められた計算式に基づいて制御していたが、地震などが発生した瞬間の建物の状態と地震動から最適解を導いてアクチュエーターを作動するAI(人工知能)が現れた。

 NTTファシリティーズのアクティブ制振システムは、建物の複数階にセンサーを設置。検知した振動と建物の状態に基づき、AIが電動アクチュエーターの制御値を判断し、建物の揺れをできるだけ抑える。

 AIはコンピューター上で地震と揺れの制御をシミュレーションするディープラーニング(深層学習)によって、その建物の最適な制御ルールを獲得する。学習のゴールはもちろん建物をできるだけ揺らさないことだ。シミュレーションの信頼性とディープラーニングの成果は三次元振動台実験で検証しており、ビルの模型が共振するような周期の地震動に対しても、有効性が確認できたという〔写真2〕。システムの適用第1号は、1997年竣工、地下2階・地上13階建てのビルの耐震改修で導入を検討中で、採用となれば20年までに完成予定だ。

構造ヘルスモニタリング─センシング技術で構造性能を監視

 建物の複数階に地震計や加速度センサーを設置し、地震や常時発生している風などによる微小な揺れをモニタリングすることで、竣工後の構造の健全性を管理する技術の開発が進んでいる。

 建物の構造性能は層間変形角によって判定することが多い。構造計算で設定した値より大きく変形した場合、構造は損傷したと推定できる。そのほかに、地盤に対して水平方向の傾斜や建物の固有周期の変化を観測して杭や建物内部の非構造部材の損傷を推定するシステムも開発されている〔図3〕。

〔図3〕構造ヘルスモニタリングの一例。NTTファシリティーズの「揺れモニ」は、複数階に設置したセンサーで検知した振動を基に構造の健全性と危険度を見える化した。視認性の高さも重要だ(出所:NTTファシリティーズ)
〔図3〕構造ヘルスモニタリングの一例。NTTファシリティーズの「揺れモニ」は、複数階に設置したセンサーで検知した振動を基に構造の健全性と危険度を見える化した。視認性の高さも重要だ(出所:NTTファシリティーズ)
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 地震発生直後に建物の被害を推定すれば、避難誘導、建物の継続使用の可否、地震後の損傷調査の優先順位をすぐに判断できる。建物管理者だけでなく、遠隔で複数建物の被害推定を把握することも可能だ。

 構造ヘルスモニタリングが普及の兆しを見せているのは、高価な地震計の半額以下で設置できるセンサー類の開発によるところも大きい。高層建築物の各階への設置や、中低層建築物への設置がしやすくなる。このような技術の発展によって、安全・安心の「見える化」が加速するだろう。

長周期・大振幅地震動対策─超高層の事前防災

 長周期地震動は震源から遠く離れた場所でも高層ビルを大きく揺らすことでよく知られている。2017年4月からは、一部の地域で高さ60mを超える超高層建築物の新築時に大臣認定を取得する場合、長周期地震動に対する検討が必要になった。

 建物の揺れを抑える制振ダンパーの設置や、内部の非構造部材や什器を固定する対策で被害は小さくなる。地震動の体感と同時にVR(仮想現実)で家具の転倒などを見られる設備によるリアルな体験は対策の必要性を強く印象付ける。