PR

 ものづくり、建設、ITの各業界において世間を大きく騒がせた大事故やトラブルを受け、企業の取り組みや制度・ルールはいかに変わったのか。過去の事故・トラブルは今、どのような形で生かされているのか。世間を騒がせた重大な事故・トラブルの教訓とは――。専門記者が徹底的に掘り下げるとともに未来を展望する。
 第9回は、空港滑走路地盤改良の偽装施工や三菱ハブ破断死亡事故などから事故・トラブルにおける隠蔽体質に切り込む。

参加者 浅野祐一=日経 xTECH 建設 編集長/日経ホームビルダー編集長
吉田 勝=日経 xTECH副編集長/日経ものづくり副編集長
中山 力=日経 xTECH副編集長/日経ものづくり副編集長
井上英明=日経 xTECH副編集長/日経コンピュータ副編集長
司会進行 大石基之=日経 xTECH編集長
戸川尚樹=日経 xTECH IT 編集長

――前回はAIやソフトウエアに潜むリスクをテーマにしました。建設業界でも、ソフトに関係するトラブルはありますか。

浅野ソフトの改ざんによるリスクという点で、悪質な手抜きに至った工事事例があります。空港滑走路地盤改良の偽装施工です。

 事件は2016年に発覚しました。海洋工事を得意とする東亜建設工業が、羽田空港、福岡空港などの滑走路や誘導路の地盤改良工事で、計画通りの施工ができていなかったにもかかわらず、正しく施工できたと偽装していたのです。滑走路の脇から斜めに穴を掘って管を配置し、その管を通じて滑走路の下に薬液を注入して地盤を固める工事でした。

 実際の工事では、滑走路の直下に向けてカーブを描きながら削孔する際の施工精度が低かったうえに、薬液の注入もうまくできていなかった。にもかかわらず、計画通りに施工できていたように偽っていたのです。

曲がり削孔における施工不良のイメージ
曲がり削孔における施工不良のイメージ
国土交通省の資料をもとに日経コンストラクションが作成
[画像のクリックで拡大表示]

 偽装を許容した大きな要因となったのが、施工状況を管理するシステムでした。削孔位置の計測システムでは、機器やシステムを原因とする異常が出たとしても、データを補正できるようプログラムを調整していたのです。薬液の流量や圧力を管理するシステムについては、異常値を補正して記録されるようにしていました。

――ソフトを改ざんし、悪用していたわけですね。どうして判明したのでしょうか。

浅野羽田空港の工事で二次下請けを担当していた会社の作業員が、東亜建設工業の子会社である一次下請け会社に通報したのが発端となっています。一次下請け会社が東亜建設工業に報告を行い、東亜建設工業の社長に状況が伝わりました。

 薬液注入の工事ですから、トラックで薬液を持ってきても、帰りはその量が大きく減ります。発注者の方で帰り際に積み荷を確認したり、材料メーカーなどに返品状況などを確認したりすれば、不正はもっと早く見抜けたかもしれません。私も羽田空港内の工事を取材したことがありますが、入場者や入場車両に対するチェック体制は相当なものです。

 ところが、出ていく際のチェックはそこまで厳しくない。だから、発注者の方で今回の不正を見抜くことはできませんでした。建設のようなリアルなものづくりに関連する行為では、単にデータ上での品質管理だけでなく、実際の物を通じた品質管理も大切です。

浅野 祐一
浅野 祐一
日経 xTECH 建設 編集長/日経ホームビルダー編集長(写真:加藤 康)

 この事件では、東亜建設工業の組織の在り方も無視できません。同社では現場がうまく施工できない状況を幹部に相談しても、「施工方法が悪い」などとして、真剣に対応してもらえなかったといいます。そんな幹部の姿勢が、虚偽の報告をせざるを得ない状況に現場の技術者を追い込んだともみられているのです。不正を知りつつも黙認した元請け、下請けの社員は少なくとも合計28人いることが、事件後の東亜建設工業の調査で明らかになっています。隠ぺいはこれだけ大きな輪となって続いていたのです。

中山ソフトウエアやデータは変更されたことが外部からは分かりにくい。ですから、神戸製鋼などの品質データ偽装問題では、検査結果の入力作業を人手から自動化に移行するという対策が取られています。でも、それで完璧にはなりません。システム化しても、ソフトの内部を書き換えようと思ったらいくらでもできるわけです。ハードウエアを変えるのに比べれば、ソフトやデータを変えるのに手間が掛からないケースは少なくないでしょう。

井上以前話題になった「性善説」か「性悪説」かに戻ってしまいますが、人間を信じない方がいいのか、システムを信じない方がいいのかを考えたとき、どちらかというと人間をきちんと教育した方がよいと思います。