金融庁が2021年11月、みずほ銀行およびみずほフィナンシャルグループに対して発出した業務改善命令は、同行の度重なるシステムトラブルを受けてのものだが、組織体制のガバナンスやカルチャーにまで踏み込んだ異例の厳しさだと話題になった。その指摘内容は、メガバンクや金融機関のみならず、事業会社のIT部門やIT企業(ひいては、業務改善命令の発出元である霞が関の組織)も、自分ごととして捉える価値がある。今回はその要諦をひもときつつ襟を正していきたい。
金融庁は同行およびグループ会社全体のシステム上、ガバナンス上の問題の真因を以下の4つと捉え、業務改善命令に明記している。
- システムに係るリスクと専門性の軽視
- IT現場の実態軽視
- 顧客影響に対する感度の欠如、営業現場の実態軽視
- 言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢
システムに係るリスクと専門性の軽視
第一に、システムに関わるリスクと専門性の軽視を指摘している。この問題はなかなか根が深い。まずもって、日本の組織の経営陣にITに関する知見や勘所を有する人材がどれだけいるか? いたとして、経営トップや株主などの経営ステークホルダーに対し正しく進言したり、「待った」をかけられたりする人がどれだけいるかという話だ。
無理もない。日本のレガシー組織の多くはITを経営の「蚊帳の外」に置き続けてきたのだから。そのような組織は、ITをコストとみなしIT機能を外出ししてきた。
「事業の選択と集中をするため」「コアコンピタンスに特化するため」などというと聞こえはいいが、その実コスト削減を目的としたアウトソーシングを進めてきたわけである。名の通った事業会社でも、ITに関するすべてを外出ししたグループ子会社やベンダーに丸投げ。IT戦略やITマネジメントを所掌(しょしょう)する部署すら社内に持たない企業もある。
「ITシステムの刷新が必要です」
「しかし当社にはIT戦略を統括する部署がもはやないのです」
「そんなはずはないでしょう」
「すべて、システム子会社に任せていまして」
「……」
これは作り話ではない。筆者はこのような問答を過去に何度も日本の大手企業の経営管理部門としてきた。相手は1社や2社ではない。笑うに笑えない話だ。
そこまでひどくはなくとも、情報システム組織がいわゆる「日陰部署」扱いの企業も少なくない。情報システム部門や情報システム担当者のプレゼンスが低い。担当役員は他部門と兼任で、IT部門トップの立場は「おまけ」程度に添えられている。部門長の発言権も弱く、管理職にしても物言わぬおとなしい人や、「コミュニケーションに難あり」のような人がどことなく目立つIT部門もある。
担当者も元気がない。「ハズレ部署に配属された」と思ってしまうからである。
唯一覇気があるのは、IT業界やIT部門を渡り歩いてきた中途採用のメンバーだ。だがその勢いも最初だけ。やがてその真実を目の当たりにし、物言わぬおとなしい人材に変わってしまう。あるいは「次の船出」の準備をいそいそと始める。
経営の「蚊帳の外」に置かれ続けたIT。そのような組織の経営陣に、ITシステムに対する知見や勘所や危機意識など期待できるはずがない。