何かとやり玉にあがるIT職種およびIT業界の多重請負構造。いわゆる「人売りIT企業」がマージンを稼ぐビジネスモデルが成り立ってしまっている。長らく続いてきた人売りITビジネスモデルだが、ここへ来て風向きが変わるかもしれない。いわゆるユーザー企業(IT企業ではない事業会社)が、ITシステムの内製化にかじを切り始めたためだ。
この機運、人売りIT企業にとって吉と出るか、凶と出るか。そして人売りIT企業に身を置く技術者は、この状況をどう捉えどう行動すべきか。今回は内製化が及ぼす影響について考えてみよう。
「人売りIT企業」の問題地図
もちろん例外もあろうが、総じて人売りIT企業は投資を惜しむ。IT環境整備なり、社員の育成なり、研究開発なり、とにかく投資をしない。マージンさえ稼げればよいと考えているのだから当然といえば当然だ。
経営陣にとって、ある意味おいしいビジネスモデルである。しかし働く社員(技術者)にとってはどうか?
受け身の仕事しか経験できない。客先常駐、下請けのビジネスモデル上やむを得ない部分もある。また、管理職であっても予算が与えられない。自身の権限において、主体的に新しい技術に投資したり、自身やメンバーの育成のためにお金を使ったりできない。客先で言われた範囲の改善提案をするくらいが関の山。基本的には、言われたことをこなす/こなさせる仕事しか経験できない。
当然、視座が高まらず、視野も広がりにくい。一方で、ユーザー企業は「事業目線」や「業務視点」を技術者に求める。
ここに大きな隔たりが生まれる。そもそも、受け身な仕事だけをこなしている人たちに、お金を使ってコトを興した経験のない人たちに、事業目線や業務視点など期待できるであろうか?
何より投資をしないのは大きな問題だ。まずもって、企業は経済を回す社会的責任がある。
無駄遣いをせよとは言わないが、IT企業たるものITや人材育成に投資し、正しく技術やリテラシーをアップデートすべきであろう。内部留保だけしてキャッシュアウトしないのはいかがなものか。
おおよそ、投資を渋る人売りIT企業の経営者は「ため込んだ内部留保がなくなったら、会社を畳んでしまえばよい」くらいにしか思っていないのかもしれない。正直、企業としての存在理由や存在価値を疑う。
SES(システム・エンジニアリング・サービス)をはじめとする人売りIT企業の経営者よ、きちんとお金を使いなさい。
技術者が学習機会を得られない。「技術者たるもの、自己研さんが肝心だ」という意見はもっともだが、自学自習には限界があるし、成長が「場当たり的」「属人的」になりがちである。人材育成への投資、新たなITを駆使する投資を計画的に実行している企業にはやはりかなわない。
ユーザー企業による「ベンダー丸投げ」の構造も災いする。IT関連業務を丸投げするユーザー企業と、それを受ける、ITや人材育成に投資しない人売りIT企業。この組み合わせはもう最悪である。こうして、DXもイノベーションもビジネスモデル変革も生まれない社会構造が出来上がる。